第153回 社会科学習会の報告

 第153回 社会科学習会は、令和元年11月30日(土)に牛込第一中学校で開催されました。今回は、全国中学校社会教育研究大会・京都市大会と関東ブロック中学校社会教育研究大会・千葉大会の報告と意見交換が行われました。令和3年度の全国大会は東京都で開催されます。学習会に参加されている方の多くが都中社研の活動に携わっていますので活発な意見交換が行われました。以下に概要を記します。


1 全国中学校社会教育研究大会・京都市大会

  11月7日、8日に岡崎公園内の京都市勧業館(みやこめっせ)で開かれました。紅葉には少し早い時期でしたが天候に恵まれ盛会でした。この大会は、平成16年に横浜市で開催された理事会で当時の山本宏之会長が立候補して実現しました。記念講演は「日本の未来と人づくり」と題して、堀場製作所理事の野崎治子さんから頂きました。堀場製作所の社是は「おもしろ おかしく」だそうです。1階フロアで3分野の授業が並行して展開され、参加者にとっては効率よく授業を見学でき好評でした。

 (1)研究内容の概要(基調提案から)

 大会の研究主題は「社会科で育てる未来の創り手」、副題は「課題を解決するプロセスを見通す力を育む単元の開発」でした。学習指導要領改訂の趣旨を踏まえて、主体的に社会に参画し、より良い人生を送ることができる資質・能力を身に付けた「未来の創り手」を育てることが目標とされました。公民としての資質・能力を「子どもたちが未来社会を創造するための資質・能力」と捉えています。そのために、未知の状況に直面した時、主体的に課題を解決するための力として、「課題を解決するプロセスを見通す力」と「プロセスを経て課題を解決する力」を身に付けさせることとしています。

「課題を解決するプロセスを見通す力」では、課題解決のプロセスを

 課題把握 ➡ 課題追究 ➡ 課題解決 ➡ 新たな課題

としています。この学習過程を主体的に積み重ねることで、課題解決のプロセスを見通すこと力が身に付くとしています。ここでの「主体的」の定義は、「振り返り」と「見通し」としています。

 「プロセスを経て課題を解決する力」は、課題解決のために必要な情報を収集し、多面的・多角的に考察したり、課題を考察した結果を踏まえて、自分の意見を選択・判断、他者に説明したり、議論を通して自分の意見を再評価し、最適解を導くことができる力としています。

(2)研究実践及び指導案についての報告

① 発表では、一つの単元ごとでは行われにくかった単元の「課題把握」と「新たな課題」を二つの単元を繋ぐことで実践できるようにしていました。単元Aでは初めの学習課題を教師が提示、その課題解決のプロセスを「課題追究」「課題解決」の場面として行い、最後に課題解決した場面での「振り返り」を次の単元の「新たな課題」の場面とし、単元Bの「見通し」を立てさせ、「課題把握」とするという構造です。

② 深い学びへのプロセス・本質的な理解を図るために知識の構造図を作成していました。また、単元計画や学習指導案に学習活動のねらいを明確にするため「独立行政法人教職員支援機構」の作成したピクトグラムを取り入れていました。

(3)公開授業についての議論

 地理的分野 「日本の諸地域」の学習の最後に「近畿地方(単元A)」を設定し、「身近な地域の調査(単元B)」と繋ぐ形態でした。環境保全の取り組みを中核とする。近畿地方で習得した考察・構想の仕方、プロセスを経て課題解決する力を、身近な地域の調査で活用し構想させるということでしたが、単元Aで学習した課題解決のプロセスの妥当性や、単元Bへの援用の仕方に疑問が呈されました。また、地図を使わない授業であったことについても、意見がありました。

 歴史的分野 「豊臣秀吉の全国統一(単元A)」では、全国統一した豊臣政権が短命であり、徳川政権が長期政権となったことを確認(振り返り)し、その理由を考えさせて(見通させて)いました。次いで、「江戸幕府の成立と東アジア(単元B)」では、長期政権の基礎(幕藩体制や対外政策、内政など)の意味を考察させていました。単元Aでは、日本史における時代の表わし方、単元Bでは世界史における時代区分の表し方についても考察させていました。連続している歴史的事象を考察させることで、解が一つでない課題に対し、追究し考察し最適解を導く問題解決のプロセスを学ばせていました。

 公民的分野 「日本国憲法と基本的人権(単元A)」の最後に「フェイクニュース」を題材として政治のあるべき姿を問い、「国民主権と日本の政治(単元B)」で扱う「くらしやすい町 京都」の学習につなげていました。単元Aの最後で「対立と合意」の考え方を用いて、「フェイクニュース」が表現の自由として認められるか、社会を混乱させる情報として規制されるべきかを議論させていました。その議論を前提に、

 市民アンケート(課題の抽出)➡仮想の市議会議員選挙(マニュフェスト、模擬選挙)➡選挙結果の分析

等を行っていました。


2 都中社研の発表

 今年は公民的分野が発表しました。研究主題は「グローバル化する社会を生き抜くこれからの生徒を育てる社会科学習」、公民的分野専門委員会(以下、委員会)の副題は「発信力と共生力、そして市民性の育成を目指して」です。2つの実践が報告されました。

 1つ目は、グローバル化する社会を生き抜くために必要な資質・能力の中心に「予想力」「共生力」「対応力」「発信力」と「資質・能力と3つの柱(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力)」とのマトリクスを作り考察したことです。

 2つ目は、新学習指導要領解説に基づいて「より良い社会を目指して」の単元指導計画を作成し、実践したことです。授業の様子を映像で示す工夫もあり、長年の研究成果や緻密な分析を生かした報告でした。


3 関東ブロック中学校社会教育研究大会・千葉大会

 11月22日に千葉市美浜区を中心に開かれました。当日は冷たい雨模様で出足を心配しました。全体会は、アパホテル&リゾート東京ベイ幕張(元の幕張プリンスホテル)で、分科会は近接の3校で開かれました。

 研究主題は「変貌する未来を切り拓く社会科学習」副題は「手応えの発見につながる『深い学び』の探求」でした。深い学びに至る「探求」は教師、生徒がそれぞれの立場で「深い学び」を「探求(探し求めて)」していきたいという意味で用いています。そこで、生徒が分からないことが分かったなどを「手応え」と定義し、「手応えの発見」が次の学びの原動力となるという考えにより研究が行われました。全国大会の「振り返り」と「見通し」という捉え方に重なるように思いました。

 研究紀要に「事実的認識の段階」(森分孝治)が紹介されています。また、深い学びができた場面のとらえ方が独立行政法人教職員支援機構次世代型教育推進センターに実践フィールド校(我孫子市立安孫子中学校)の研究成果として紹介されています。いずれも貴重な資料です。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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