第148回 社会科学習会の報告

 第148回 社会科学習会は、令和元年5月25日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回は、「図書教材編集とネタさがし」というテーマで、西山嘉文氏(元教材出版社編集部)にお話しいただきました。

 西山氏は出版社に入社以来、その多くを学習教材、とくに社会科の教材編集に携わってきました。地理的分野の資料集に「地域版」を導入し、その編集を通して各都道府県市の社会科教育研究会の先生方の支援をされました。全国中学校社会科教育研究会 発展の礎を築かれた方です。以下に講演概要を記します。


(1)そもそも、図書教材って何?

 まず、日本図書教材協会の発行した『授業と教材』をもとに、教材とは何かについて説明がありました。教材というと、教科書以外の素材と考えられている向きもありますが、教科書も「教科の主たる教材」です。ただ、教科書は全国の生徒を対象にしているので、学校や地域の実態等をふまえ、教科書の活用に工夫を加えたり、教科書以外の各種の教材を活用したりする取り組みが、教師に求められています。その各種教材の一つが、資料集や用語集、問題集などの「図書教材」です。図書教材をすべて教師が開発するのは難しいので、教材出版社が良質で安価な図書教材を発行し、それを多くの学校で購入・使用しているのが現状です。


(2)編集者って、どんなことをやっているの?

 図書教材ができるまでの流れの説明がありました。その中でも、企画立案の重要性が指摘されました。より良い企画立案のための工夫として、とにかく現場の教員と会ったり、各種の展覧会・展示会・講演会・セミナーなどに参加したり、資料集で使えそうな新聞記事の切り抜きをしたり、会社への通勤では毎日同じ道を通らなかったりと、さまざまなことを心がけていたことを紹介されました。


(3)「歴史資料集」の編集って、何が楽しいの?何が大変なの?

 歴史資料集の編集について、実際に出版されている資料集の江戸時代の貿易統制のページを例に、説明がありました。様々な資料がどのように選ばれ、どのような意図をもって資料集に掲載されるかという点について、先生方は考えたことはあるでしょうか。

 まず、どのような資料が教科書に掲載されているか確認し、教科書の本文をよく読み、生徒の学習のために必要と考えられる資料をピックアップします。その後、

・教科書にも掲載されているが欠かすことのできない同一資料

・教科書に掲載されている資料と類似している資料

・教科書に掲載されていないが、本文の内容の具体的な理解のために必要な資料

・教科書に掲載されていない資料

とそれぞれ分類しながら整理し、授業の展開イメージをもとに資料を過不足の無いように構成していくのだそうです。

 各資料が掲載された理由や特色の説明もしていただきましたが、例えば、教科書に肖像画が掲載されている天草四郎は、資料集では、手を組み祈っている像が掲載されています。これは、キリスト教徒であることを生徒がわかりやすくなるような独自の工夫なのだそうです。また、キャプションをあまり入れずに生徒の思考を邪魔しないなど、編集の段階でも様々な工夫が随所に取り入れられているのです。

 我々教員は、このようなことを知ったうえで、教科書の本文の深い内容や掲載されている資料の意図を読み取るだけでなく、資料集に掲載されている資料の意図も読み取っていくことで、よりよい授業づくりをしていけると感じました。


(4)実際に校正(原稿チェック)をしてみよう

 10か所のミスがある原稿のチェックをしてみました。普段、定期考査を作成するときにチェックしていても、チェックしきれないミスと同じような、表記の統一や誤字など、なかなか見つけることができず、手こずってしまい、編集作業の大変さを感じました。


(5)こんなところに教材のネタが

 博物館や資料館では、実物や複製など、いろいろな資料を見ることができますが、特に最近では、公的機関や大学附属の博物館や資料館など、無料で見ることができるところが増えていることが紹介されました。また、大規模な図書館で閲覧できる新聞のバックナンバーでは、戦前の新聞も含め見ることができるので、米騒動の記事が削除された当時の新聞など、資料集に活用されたものもあることが紹介されました。さらに、普段生活している街を散策している中で、古い地名が残る遺構などを発見し、教材化することもあるそうです。


 今回、西山氏の講演に参加し、教員と同じかそれ以上に、出版社の方々も勉強されていることを感じ、我々もより良い授業づくりのために自分自身で教材探しを日々しなければならないと改めて感じました。


<記録 武蔵村山市立中学校 M先生(管理人一部修整)>

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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