第202回学習会の報告と次回以降のご案内

 第202回社会科学習会は4月12日(土)に新宿区立牛込第一中学校で、篠塚昭司先生に「社会科教育と私の実践」という主題でご講演を頂きました。篠塚先生は、東京都の公立中学校、東京学芸大学附属世田谷中学校に勤務され、令和6年3月に退職、現在、東京学芸大学と法政大学で講師として学生を指導されています。幅広い指導の経験と実践、研究を踏まえた社会科教育についてお話しをいただきました。冒頭、会長の峰岸先生から、「社会科学習会が高山昌之先生、峯岸誠先生、園田満三先生の呼びかけにより2006(平成18)年4月に発足してから、本年で20年目を迎えることになりました。区切りの年となりますので、本年も社会科学習会の活動がより充実したものとなりますよう、皆さんと共に研究や実践を積み重ねて行きたいと思いますのでよろしくお願いいたします。」とのお言葉がありました。

以下要旨を報告いたします。

1.私の社会科観

 私は江戸川区で教員生活を始め、いくつかの区市を異動し、最後に東京学芸大学附属世田谷中学校の教員となりました。現在は大学で社会科教育を担当しています。

 大学の授業開きで、中学生が好きな教科、嫌いな教科について尋ねています。ある調査によると社会科は好きな教科4位、嫌いな教科4位だそうです。社会科の先生方の努力で、社会科が好きという解答が多くなっていると考えます。大学生にどのような授業をしたいかを問うと、眠くならない授業、と答える学生がよくいますが、「観(社会科観,教材観,生徒観など)」をもった授業をしてほしいと伝えています。私は「事実は複数、真実は一つ(物事を見る見方や視点によって事実が異なること、しかし、起こった出来事は一つ→批判的に見たり、多面的・多角的に考えたりする)」「社会科は暗記ではなく、考えること」であると生徒に伝え、真実を見抜く目をもった主権者に育ってほしいと思って授業を進めてきました。

 学芸大世田谷中に赴任して最初の公開研究会の授業(アフリカ州)で、「ガーナではなぜチョコレートを食べられないのか」をテーマとして取り上げた授業を行いました。生徒は「暑いからチョコレートが溶ける」「貧しいから」などと答えました。それらを批判的に考察させるために、「本当にそうなの?」と問いかけたり、反証となる景観写真を見せたりして、本当にそうなのか考えさせました。そして、生徒がたてた予想が正しいのか、現地のことを取り上げたテレビ番組の動画を使って検証していきました。動画の中には、児童労働や靴を履かずにサッカーをしている子どもたちの様子を見て、現地の農園の子ども達に共感したり、予想をさらに精緻に理解したりしていく姿が見られました。動画には、日本人が現地の人にチョコレートをあげるべきか悩むシーンがあり、生徒にも同じようにそれを考えさせました。動画ではチョコレートとサッカーボールをあげるシーンがありましたが、それを一歩進んで「無償援助」という視点から捉え直させました。無償援助は悪いことなのか、チョコレートを食べる側には何かできることはないのか、などの視点から改めて考えさせた後、アフリカ州の単元のテーマとして、なぜアフリカには貧困が多いのか考えることを設定しました。

 このような「課題解決型の授業(教師が問題を作り、系統主義的な知識等も身に付ける)」を私は進めています。一般的な探究的な学習は「課題設定⇒情報収集⇒整理・分析⇒まとめ」の流れですが、私は「情報収集⇒課題設定⇒予想⇒検証⇒解決⇒新しい学習課題を設定」の流れを心掛けています。そして、「楽しく学ぶ」課題解決型授業を目指しています。

 生徒に年度末に無記名の授業アンケートを取ったところ、多様な授業方法だから楽しい、意見交換するから楽しい、分かる(知る)から楽しい、考えるから楽しい、つながるから楽しい、という意見が出され、課題解決型の社会科の授業に対する楽しさがあることを教えてくれました。授業改善は、授業を受けている生徒の生の声を真摯に聴かないと達成できないと考えます。

 市川伸一の「学習動機の2要因モデル」理論も参考にしていますが、課題解決型の授業は様々な学習意欲を刺激するものと考えています。

2.授業づくり

⑴ 授業の9割は学習課題で決まる

 授業者(教える側)の論理と、生徒(学ぶ側)の論理があります。生徒にとって(関心や生活と近い、地域が近い、タイムリーであるなど)身近であること、感情を揺さぶること、既得知識をひっくり返すこと、分かりそうで実は分かっていないことを、学習課題に設定する際に重視しています。学ぶ側の論理から始め、教える側の論理を組み合わせて課題を作ることが大切だと考えます。

 なお,授業タイトルは,生徒が最も関心をもつような内容からつけるようにしています。

⑵ 授業を豊かにする教材研究と問いづくり

 私は教科書研究、社会勉強、他者の授業案から学ぶことをベースにしています。具体的には、まずは中学校の教科書⇒小学校の教科書⇒社会勉強⇒インターネット⇒本の順で調べます。教科書の記述内容を関連図にしてつなぎ、構造化します。そして、記述内容の具体的な状況や数値などを、さらに追究します。関連図に、小学校の教科書の情報や社会勉強から得た情報を書き足します。

 次に,それぞれの情報を生徒に聞くように問いを立てます。結論から「なぜ」の問いで内容をつないでいくことが多いです。問いには「事実を問う問い」と「思考を問う問い」があります。また、「閉じた問い」と「広がる問い(答えがない,根拠となりそうなことが複数ある問い)」があります。これらを組み合わせて授業に入れていくことが必要です。組み合わせとは、「閉じた事実問い」、「広がる思考問い」などです。豊かな「問い」が、生徒を刺激し、深い学びに繋がっていくと考えます。

⑶ 活動あって学びもありの思考活動

 生徒の思考活動のために、他者との対話、自分との対話、資料との対話の時間を設けるようにしています。他者との対話はコミュニケーション力、自分との対話はメタ認知力、資料との対話は資料活用力をつけることに繋がります。また、思考活動を誰と行うかも重要です。私はペア学習を多く取り入れていますが、話す力や聞く力をどのように育てていくかも考えながら、どの規模の活動が適切かを考えていきたいと思っています。

 また、私が良く取り入れる思考活動としては、二者択一(意思決定)、並べ替え(根拠をもって論理的に考察)、提案型、吹き出し型、発想型があります。

 これらを多様に組み合わせて、思考活動を活発にするようにしています。そして、グラウンドルールとして、人の話を最後まで聞くこと、否定的な態度はとらないこと、全員が考えを表明すること、多数決は禁止、制限時間を守ることなどを徹底しています。これらを設定することで、今でいうところの「個別最適な学習」や「協働的な学び」も達成されると考えます。

【質疑応答】

・現代社会で起こっていることを、どのように授業に取り入れていけばよいか?

⇒落語の「枕」ではないが、生徒の反応を見ながら授業内容につながるように取り入れていくとよいのではないか。

・評価について、どのように自身の授業改善を進めているのか。また、生徒の評価はどう進めればよいか。

⇒授業の最後に振り返り(感想・意見・疑問)を書いてもらい、それについてコメント指導をする中で自己評価を改善したり、授業の情報収集としたりしている。

・授業で取扱う(教える)内容の精選はどのように図っているか。

⇒重要語句についてきちんとおさえるようにワークシートを作成している。また、授業の挨拶の後、前の時間の5問テストをしている。ハンドサインで答える時間を設け、全問正解した生徒に小さなシールをあげるようにしたところ、休み時間に復習をする生徒がたくさん出た。いわゆるバラテストも活用している。

・テストと授業の兼ね合いはどのようにしているか?

⇒授業が面白く、社会科が好きであれば,自分から学習をするようになると思う。まずは授業で社会科を好きになってもらうことを大切にするとよいのではないか。テストでは授業で扱ったポイントを問うので、そのポイントを生徒とも共有しておくことは必要かもしれない。

・多様な特性をもつ生徒への授業対応はどのようにするとよいか?

⇒「学ぶ側の論理」で授業を考えていくと、学習が得意な生徒も不得意な生徒も同じ土俵で意見を言えるのではないか。学習課題の設定を工夫することで、多様な生徒の意見が生きる授業になっていくのではないか。また、教室に早く行き、気になる生徒に声をかけるように心がけている。いろいろな生徒と話をすることで、コミュニケーションを図りながら関わりを深めていきたいと思っている。

・ご自身の授業をあえて批判的に見た時に、改善点等はあるか。

⇒教科書に書いていることを教科書の順で進めてほしいという生徒がいた。自分がいいと思っていることが、生徒にとっては苦手である場合もある。ただ,毎回同じパターンにならないように心がけている。

・歴史は生徒にとって身近に感じにくいと思うが,どのように生徒に近づけているのか?

⇒歴史は民衆の立場に感情的に共感できるような教材を使うようにしている。奈良時代の「農民は奴婢になりたい」の実践は,万葉集にある歌を手がかりに考えた。

・今の授業スタイルを、教員のキャリアのどのくらいの時期に確立したのか?

⇒それまでは感覚的に行っていたものが40代の頃大学院に行ったことで、理論化することができた。優れた実践者の授業をまねることで、自分なりの色を付けていく中で、今のスタイルが出来上がったと思う。しかし、中学生の視点で社会科を考えることも大切だと思っている。中学生とたくさん話したりするなど、中学生の目線で物事を考えていけようになるとよいのではないか。


次回の社会科学習会について

 次回は、5月17日(土)に第203回社会科学習会を行います。

 テーマは「ミニ巡検 東京の尾根と谷 10 玉川上水を歩く」で、西山嘉文氏に講師をお願いして行います。

 西山氏には、出版社に在職中、退職後も全中社研をはじめ社会科教育研究会の研究活動にご理解とご支援をいただいています。玉川と生きる昭島市民の会でも活躍され、玉川上水を13回踏破しています。

 玉川上水は、身近な地域教材として地理、歴史、現代社会の学習活動で活用することができる東京の貴重な史跡です。社会科学習会としては3回目の「玉川上水を歩く」ことになります。

 西山氏からお話を伺いながらゆっくり拝島から小平監視所まで玉川上水を実踏して学びを深めていきたいと思います。

 17日(土)午後1時、西武線拝島駅改札口前に集合してください。(JR拝島駅と西武拝島駅は、通路で繋がっています)

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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