第 175 回社会科学習会は、令和4年 11 月 19 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開かれました。今回は、本会会員の足立区立千寿桜堤中学校の近藤沙耶香先生から、「第 55 回全国中学校社会科教育研究大会名古屋大会での発表報告」を伺いました。また、発表に先立って岩谷俊行先生より名古屋大会の全体について伺いました。
全国中学校社会科教育研究大会では、主催する都道府県市の研究報告と授業実践の公開を中心に構成されます。そのほかに三分野ごとの研究発表部門があります。慣例で次年度開催の都道府県市の発表が行われますが、東京都中学校社会科教育研究会は毎年、一分野の発表枠が与えられています。今年は地理的分野が発表しました。この仕組みについてのきまりはありませんが、東京都中学校社会科教育研究会の情報発信力や研究力への期待と考えることが出来ます。以下に報告の要旨を紹介いたします。
1.名古屋大会の全体像
新型コロナウイルスの蔓延が収まらない中で大会が行われるのか否か、慎重な状況分析が行われた結果の開催でした。昨年の東京大会とほぼ同様で、記念公演などのセレモニーを伴わない形でした。また、愛知県や名古屋市の条例(情報発信の規制)により、動画を使った外部への発信は行われませんでした。大会 2 日目のメインである検証授業も昨年同様、授業録画を視聴する形でした。それでも、新型コロナウイルスに伴う規制がない中での大会でしたので各分野ともかなりの参加者がありました。
研究主題は、第 20 回大会(昭和 62 年度)以来継続して「人間の生き方を問い続ける社会科教育」で副題は「『多様化する社会』を生き抜く生徒を育てる授業の追究」でした。主題の背景として、①地球規模の課題に直面している社会、②多様化した社会、③合意形成が困難な社会を挙げています。また、副題に迫る教材の条件として、①社会とつながりのある教材、②人々の営みが見える教材、③追究意慾の持続する教材を示しています。そのための単元構成として、とらえる→考える→認め合う→つなぐ(平成 20 年度大会では「問い直す」)という構成を考え、検証授業が行われ、当日は録画が会場で公開されました。
2.東京都中学校社会科教育研究会(地理的分野)の発表報告
(1)研究の経過
昨年の第 54 回東京大会では、「グローバル化社会を生き抜くこれからの生徒を育てる社会科学習~よりよい社会を実現するための資質・能力の育成」を研究主題として、研究と検証授業の様子を発表しました。この主題に迫るために育成する資質・能力を「4 つの力」として示しました。「4 つの力」とは「予測力」、「対応力」、「発信力」、「共生力」であり、相互に関連し合っていると考えました。
(2)地理専門委員会の取組
都中社研地理専門委員会では「4 つの力」と ESD との関係を示し、2 つの授業実践を示しました。その後、従来から続く環境問題や人権問題など世界的な課題に加えコロナ禍は終わりが見えず、ロシアのウクライナへの侵攻と世界の中での分断はますます進行しています。このような課題解決には、互いの考えを尊重し合い、協働することが何より必要と考えました。そこで、生徒が課題を把握し、解決のために必要な、互いの多様な意見を受容し合ったり、合意形成したりする力である「共生力」の育成が、持続可能な社会を作るために不可欠と考えました。
第 54 回東京大会では、「4 つの力」は相互にフラットに関連し合っているとしました。その後の研究で「4つの力」がよりよい社会を目指して有効に働くためには、その基盤に「共生力」が位置づいている必要があるのではないかと考えました。そのため、基盤に「共生力」を置き、その上に 3 つの力が相互に関連し合っているという構造を考えました。そこで、地理専門委員会では、「4 つの力」の中でも特に焦点を「共生力」にあてて育成を図ることを提案しました。
(3)「共生力」を育む授業構成
「共生力」の育成のための視点として次の 2 点を捉えています。
① 様々な地域の具体的な事例から、協働して様々な取り組みを行っていることを知識として捉え、その概念を理解して価値を見いだすこと。
② 様々な課題を解決するために、多様な人々と意見を交換する中で互いの意見を受容し、尊重し合い、合意形成を図って行くこと。
指導計画の立案に当たっては、1 学年の初めでは視点の①を多くし、次第に視点②の要素を濃くしていくことが適切と考えました。
(4)「共生力」をどう”評価”するか
東京大会においては、「4 つの力」を評価の観点と関連付けたマトリクスを作成し、A、B、C の段階を付けて評価する取り組みを示しました。しかし、「共生力」は他者と受容し合い協働しようとする生徒の内面性に深くかかわるものであり、評定を付ける形での評価はふさわしありません。「共生力」は個人内評価とし、生徒の記述や発信などから、「共生力」が発露している場面を注意深く見出し、形成的に評価してゆくことが求められると考えています。
(4)検証授業について ―北アメリカ州―
① 「人種のサラダボウル」とも呼ばれるように人々の営みを考えるうえで「共生力」の理解が必須の地域である。
② 小学校で世界地理の学習が取り入れられているが取扱いには学校、学級などにより濃淡がある。そこでレディネステストを行い、生徒の状況をあらかじめ把握して授業を構成した。
③ 授業者は 1 学年の担当ではなく、この単元のみを指導した。授業では、他者との意見交換、ワークシートの活用、地図資料の活用などを工夫した。
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