第176回社会科学習会 報告

 2022年12月17日(土)の15:30から牛込一中にて,本会会員で,中野区立明和中学校の長井利光先生の実践発表を行いました。今回は学期末に近いこともあってか,会場よりもオンラインでの参加が目立った回でした。以下に,その概要を記します。


1.所属校について

 中野区立明和中学校は、令和4年・5年度の「人権尊重教育推進校」である。テーマは「共生社会の実現に向けて」を掲げ、まずは教職員が、都が掲げる17の人権課題に関する理解を月1回の研修を通して深めるとともに、各教科等とのつながりを考えた。


2.授業づくりにあたって

 授業を行うにあたり、事前にアンケート調査を行い、北朝鮮による拉致問題についてアンケートを取った。「あまり知らない」が45%、「知らない」が10%で、半分以上が知らないと回答した。

 この結果を踏まえ、授業を作るにあたり、「人権にかかわる普遍的な概念を念頭に置き、人権尊重の理念について指導すること」を意識した。意図的計画的に偏見や差別と出会わせ、いかにそれらが醜いものであるかを実感させ、どうやったらこれをなくせるか考えさせるところまでを目指した。

 今回、授業づくりにあたって、内閣官房拉致問題対策本部とのつながりもできた。また、夏に拉致現場視察と、蓮池薫さん、横田めぐみさんの弟(拓也)さんに話を伺う機会を得た。横田拓也さんに、生徒からの質問を聞いてみた。「なぜめぐみさんが拉致されたのか?」→身長が高く、目立ったことがあったのではないかとのことであった。

3.事前授業

 今回の授業は、事前授業を行ったうえで、本授業を行った。事前授業では、2012年に社団法人新潟青年会議所から発行された「家族愛」という資料を利用した。これはアニメになっていることで、拉致問題についてつかみやすくなっている。

 横田めぐみさんが拉致された当時は、北朝鮮が行ったとの認識は社会一般にもなかった。このような拉致問題解決に向けた歩みについて、事前学習では、内閣官房拉致問題対策本部が公表している資料「北朝鮮による日本人拉致問題」を用いて取り扱った。今年は拉致被害者が帰国してからちょうど20年である。

 事前学習では拉致問題に対する生徒の意見や思いを集約し、これを基に、夏の研修で蓮池さんと面会した。

 夏の研修では発表する機会も得た。そして、蓮池さんが拉致された現場も視察し、他県の先生方と一緒に授業を考えることができた。この中で、事前にわかる知識についてはあらかじめつけておく必要があること、北朝鮮の国民の問題ではない(指導部の問題である)こと、日本だけではなく国際社会全体の問題であること、わかりやすく扱うことが大切にすべきポイントだと見えてきた。

4.本授業

 10月26日に行った当日の授業(中学3年生対象)では、横田めぐみさんの写真(当時中学校1年生)を初めに見せ、どんな人か考えさせた。拉致問題啓発のポスターも使用し、めぐみさんが11月15日に北朝鮮に拉致されたことを伝えた。「拉致」とはどういうことか、政府の解説を用いて説明した。(身代金目的などの誘拐とは違う。自分の意志に反して連れて行かれたということ)。映像や掛地図を利用しながら授業を進めた。拉致がどこで発生したか、地図を使って確認した。映像「めぐみ」は、生徒が真剣に視聴していた。

 授業はあくまでも社会科の授業として位置付けた。公民的分野の日本国憲法の学習の後に行ったことを踏まえ、拉致によってめぐみさんのどのような人権が侵害されたのかを考えさせた。生徒からは、自由権や幸福追求権に関する意見が出された。また、憲法12条の「不断の努力によって、これを保持しなければならない」を改めて確認し、人権を守るためには私たちが絶えず努力する必要があることを確認した。

 続いて、めぐみさんのご家族のメッセージビデオを紹介し、家族の立場からの気持ちを考えさせた。

 これらをまとめるかたちで、めぐみさんが失ったもの、私たちができることをグループで考えさせた。生徒からは、北朝鮮に訴え続けること、拉致に理解のある人に投票することなどの意見が出された。話し合った内容を基に、個人で考えてくるよう伝え、最後に、授業者自身が新潟で見たことや、蓮池さんから伺ったことを伝えた(参考資料:朝日新聞記事)。

※蓮池さんのメッセージは、北朝鮮の人は優しくしてくれた(拉致は北朝鮮国家の問題である)こと、拉致問題は現在進行形の問題であること、拉致被害者家族の高齢化が進む中で、若い方の力を借りたい(風化させないために)という内容だった。


5.本授業の評価

 本授業の評価については、

・これまでの憲法学習等で学んだ知識を踏まえて、広い視野で拉致問題と人権との関わりや、その解決について考察できているか。

・私たちにできることを考える活動を通して人権問題を主体的に解決しようとしているか、自分のこととしてとらえようとしているか。

を評価のポイントとして設定した。


6.おわりに

 最後に、授業を振り返って、長井先生が考えたことを紹介いただいた。授業前に想定していなかった、憲法に私たちの生活が守られていることへ、生徒の気づきがあったこと、世界の人権の問題であるという視点から考えると、北朝鮮の人権問題の解決が、拉致問題の解決にもつながるのではないかという気付きを得られたとのことであった。

また、現在政府が取り組んでいることを多数紹介いただいた。最新情報を得ていくことの大切さも今回授業を実践して気づいたとのことであった。

参考:政府 拉致問題対策本部(https://www.rachi.go.jp/index.html)

 質疑応答の中では、拉致問題の内容的な難しさを考えると、地理歴史を学んだ中3での実施が適切であったのではないか。北朝鮮がなぜこういったことを犯したのか(どんな国家体制だからこのようなことをするのか)を幅広い視点から考え、それと日本の仕組みを比較する授業もできるのではないか。という意見や、憲法による人権保障と外国による人権侵害の解決を絡めていたが、それは適切だったのか。という質問が出された。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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