第131回 学習会の報告とお知らせ

 第131回学習会は11月18日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場にして開かれました。内容は、全中社研・島根(松江)大会と関ブロ中社研・埼玉(川越)大会の報告でした。

 都中社研は全国大会で毎年一分野が発表の機会を得ています。今年は、歴史的分野が発表の年でした。そのようになっている背景には、都中社研が全中社研の運営組織を実質的に支えていることと併せて、東京都の研究水準や情報発信力などがあります。

 島根大会の研究主題は「未来を拓く社会科学習 ~深い学びを実現する思考力・判断力の育成 ~」でした。また、川越大会の主題は「追究する力を育てる社会科学習 ~主体的・協働的に学ぶ学習の充実~」でした。

 今回は、渡辺智紀先生に記念講演と地理的分野を、松本賢先生に基調提案についての報告と、歴史的分野での発表報告を頂きました。また、関東ブロック大会について峯岸会長から報告がありました。以下に概要を記します。


1 記念講演

 「次世代に託す 平和への想い  ―画家 加納莞蕾―」と題して加納佳代子氏の講演が行われました。加納莞蕾は、戦後フィリピンの軍事法廷で裁きを受けていた日本兵の助命嘆願に精力的に取り組み、実現を果たしました。講師の加納佳代子氏は加納莞蕾氏の娘にあたり、小学校教員を退職後に加納美術館の館長に就任され、画家加納莞蕾の作品の収集・展観とともに顕彰に勤めてきました。

 講演内容は勿論でしたが、島根大会の実行委員長 片山博子先生との出会いの様子に感動をしました。片山先生の勤務校にひっそりと掲げられていた加納莞蕾作の「アジサイ」が二人を結び付け今回の講演に至ったとのことです。皆さんの学校にもこのような「お宝」が眠っていませんか?

2 地理的分野の授業

 主題を受けて分野の研究の柱は、①「単元の構造化」と「単元を貫く問い」の設定、②思考力・判断力を育成する学習活動の工夫、③評価活動の工夫でした。

「南アメリカ州」と「関東地方」の授業が公開されました。授業展開はいずれも、個人の学び ⇒ 小集団での学び合い(KJ法等の活用) ⇒ 全体での共有(ホワイトボードの活用)という流れでした。地理的分野と歴史的分野で個別知識を積み上げて概念知識を構成し、価値判断は集大成として公民的分野で行うという理論で構成されていました。

3 歴史的分野の発表

 都中社研の研究主題「国際社会を生き抜くこれからの生徒を育てる社会科教育のあり方」を受けて、歴史的分野は副題「思考力・判断力・表現力を育成する歴史学習の指導のあり方」を設定しました。そこで、歴史学習における思考力について次のように考えました。

ア 歴史的事象を空間的に考察する力

 (ア)社会的事象を様々な面から考察する力

 (イ)社会的事象を様々な立場から考察する力

イ 歴史的事象を時間的に考察する力

 (ア)社会的事象を原因と結果との関連から考察する力

 (イ)社会的事象を長期的な視野で考察する力

 (ウ)社会の変化を見通し、予測する力

 具体的には、「古代までの日本」と「武士の台頭と鎌倉幕府」の授業実践の分析結果が報告されました。「武士の台頭と鎌倉幕府」の授業では、摂関政治、院政、平氏政権、鎌倉幕府の成立、承久の乱の5つの時期に分けて武士の台頭を数字でとらえ、武士力メーター(円グラフ)に示させるという手だてをとりました。大変興味深い手だてしたが、円グラフに示す際の学習の状況が、写真や生徒のつぶやきなどで説明されると参会者の理解がさらに進んだものと思われました。

4 公民的分野

 「民主主義とは何か ~現代の民主主義を評価する~」と「国際社会における国家主権とは何か ~領土学習を通して~」の授業が公開されました。「国際社会における国家主権とは何か ~領土学習を通して~」の授業は、竹島を扱い国家主権と領土を考えさせ、イギリスのEU離脱を通して国家主権を理解させるという構成でした。最後の授業に当たる公開授業では、EU離脱に納得、納得できないの立場をそれまでの学習の中で表明させ、パネルディスカッションの後に再度、判断を行わせました。多数の賛成派と少数の反対派の判断は変わりませんでした。主権のように抽象的な事象を扱う場合は、紙幣などの具体物を例示することにより理解を深めさせることができるのではと考えました。

5 関東ブロック大会

 歴史的分野の2つの授業を参観しました。一つは、「中世の日本 ~武士はどのように支配を広げていったのだろうか~」、もう一つは、「近代の日本 ~明治政府はどのように近代国家を形成していったのだろう~」でした。近世の日本では、承久の乱の院宣に対する対応を在地の地頭川越氏の立場で考えるという内容でした。近代の日本では、学制公布に際しての地元の水村清の取り組みについて考えるという内容でした。

 この授業を参観しながら、平成20年の名古屋大会が思い起こされました。「武家政治の始まり ~承久の乱と山田重忠~」、「明治維新 ~黒川治愿(はるよし)と新木津川用水~」の授業構成と大変類似性がありました。先行研究の成果を活用した例と考えることもできます。


次回は第132回 特別な講演会です。ぜひお誘い合わせの上、ご参加下さい。


 12/23(祝日・天皇誕生日)15時~ 牛込第一中
主題:改訂学習指導要領について学ぶ②
講師:国立教育政策研究所 教育課程調査官 藤野 敦先生
演題:「学習指導要領 中学社会科と主体的・対話的で深い学び ― 変化点とお金 ―」
     

 


社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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