第123回 会員の実践発表

第123回の学習会は、2月25日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。年度末で学年末考査や成績処理の時期で、忙しい中ではありましたが、11名の参加がありました。

 今回は、平成20年5月より、本学習会のメンバーとして活動し、本学習会運営の中心的な役割を担ってくださっている、お茶の水女子大学付属中学校の渡邊智紀先生の実践発表として「コミュニケーション・デザイン科と社会科」というテーマでご発表いただきました。“コミュニケーション・デザイン”という新しい概念について発表していただき、とても充実した学びとなりました。概要は以下のとおりです。(今回の記録:渋谷区立中学校教諭 I先生)


1.コミュニケーション・デザイン科(CD科)とは?

 コミュニケーション・デザイン科とは、お茶の水女子大学附属中学校(以下、お茶中)で、現在、取り組くんでいる校内研究の中で、新しい科目として設定された。これまで、お茶中では、生徒の主体的な課題の追究・解決の力を育てる『自主研究』を中心とした総合型教育課程の研究開発に取り組んできたが、その中で、「汎用的な能力を身に付けさせる教育、特に、『協働的な課題解決』へとつながる教育についての研究が必要である」との結論に至り、本科目を設定した。

コミュニケーション・デザインとは、要約すると、相手との円滑なコミュニケーションや様々な場面での伝達のスキルを学んだり、協働的な課題解決の力を育てるための科目である。他人の意見を尊重しながら、どのような伝え方をしたら自分の意見を伝えることができるか、ということについて、授業を通して学んでいく。話し合いをするときのスキルを学ぶことで、協働的な深い学び合いが提唱される、これからの学習指導要領において、どの教科にも通じる“話し合いの型”を学ぶことができる。また、他人の意見を尊重し、自分の意見を伝えることで、自分も他人も大切にするという人権感覚も養うことが可能である。

当日の学習会では、渡邊先生からこの科目の学習指導案も提示され、どのように授業を行っているのかが垣間見られた。

2.コミュニケーション・デザイン科と社会科との関係

(1)社会科で育てる、コミュニケーション・デザイン科で必要な力

 社会科で育てる、コミュニケーション・デザイン科で必要な力として、次のものがあげられる。

よりよい生活や社会の実現をめざす創造的・協働的資質の基礎を養うCD科の目標は、社会科の教科のねらいである公民的資質の育成につながる。テーマ学習で取り上げたいと考えている題材例は社会科の中で関心を掘り起こし、主体的な学びへと橋渡しすることができる。反対に、CD科で学んだ内容を社会科で深め、発展させることも可能である。

 このように、社会科でしか育てられないスキル(知識・概念、思考力、意欲や人間性)や、社会科の本質(不易)をしっかりと理解した上で、CD科を関連付けていけば、より社会科の学習を深めることができると考えられる。

(2)コミュニケーション・デザイン科の学びを社会科に活かした実践例

 コミュニケーション・デザイン科の学びを社会科に活かした実践例として、1年生の地理的分野「世界の様々な地域の生活と環境~生徒授業Ⅰ」を行った。

 世界の様々な6つの事例地域を生活班で分担し、それぞれの環境と生活との関わりについて調べ、レジュメにまとめ、単なる発表ではなく、「授業」の形態で伝えるよう指示した。

 調べ学習やまとめの段階では、自分たちの生活や文化を絶対視するのではなく、比較や自然環境、文化との関連の視点から、相対化してみることの大切さを強調し、指導していった。このような取り組みから世界の様々な生活習慣や異なる文化に対する視野の広さや寛容性を養っていくことができ、社会科やCD科の目標である協働的な課題解決を支える力の育成につながると考えた。

 また、生徒が授業を行う際には、説明だけでなく、「問い」を発することができるようにと指導した。問をつくることで、自らも分析的に深く地域について知ることができるほか、授業で問を発することで、授業を聞く立場の生徒に対して興味を持たせるなど、伝えたいことを十分に伝えるための方法となる。

3 おわりに

 “コミュニケーション・デザイン”という新しい概念は、とても興味深い内容であり、その後の質疑応答でも、参加者の中から活発な意見があがった。また、授業実践例で、中学校1年生を対象に、先生役を演じさせるという指導の内容も非常に面白く、大変参考になった。

今回参加したメンバーの質疑応答の中では、CD科の取り組みによる生徒の変容や、総合的な学習の時間との違いなど、CD科についてより深い学びをしたいと質問があがった。また、自分が実際に指導する場面を想定して、授業実践例について、具体的な手立てをどのように行ったのか、などの質問もあがった。まだまだ、お茶中でもCD科については、研究の最中であるとのことである。しかし、CD科により、生徒が主体的に学習に取り組むようになるとともに、社会科の学びをより深く、充実したものにすることが可能であると感じた。


 今回、発表いただいた、渡邊先生におかれましては、お忙しい中、資料の準備から発表まで、ありがとうございました。今後も研究の動向について注目し、学習会を通して、より深い学びを得たいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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