第147回社会科学習会は、平成31年4月20日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回は「中学社会科と高校地理総合」というテーマで、澁澤文隆先生(元教科調査官、元帝京大学教授)にお話しいただきました。課題追究型の学習を目的とした高校の「地理総合」について解説いただき、その上で中学校の地理では特に基礎・基本の学習を重視して欲しいこと、また地理的な「見方・考え方」とそれを大学入試で評価する難しさについてご講演いただきました。
学習会には、前回から参加している教員採用試験を目指す大学生2名や、久々の参加の先生もおり、それぞれ自主的な学びを深めていました。
次回は5月25日(土)15時~ 牛込第一中会議室にて、
講演:「学習教材編集を通して~教材開発の知恵と工夫」
講師:西山 嘉文 氏(元 学習教材出版社社員)
を行います。日頃授業で使う資料集やワークブックなどの教材がどのように作られているのか、その活用のポイントはどこか、など、教材を作る側の視点から貴重なお話を伺います。ぜひご参加ください。
1.高校「地理総合」とは
高校の「地理総合」とは、地理的なアプローチを使用しながら、現代社会の課題を学ぶ科目である。「総合」の意味は、地理的事象を網羅的にとらえるのではなく、これからの社会を生きる生徒たちに「地理」という学問の有用性を認識させ、その活用を通して現代社会(の諸課題やその解決策)が見えてくる生徒を育てたいということである。
これまで、小学校では主に身のまわりの地域から気候や産業といった日本のおおまかな地理的特色までを学習し、中学校では世界と日本の国土認識を深める学習を行い、高校では世界地理の学習を中心に行ってきた。しかし今後、地理総合では、「小学校・中学校で学んだ地理的な知識や技能、地理的な見方・考え方を(総合的に)活用しながら、現代社会を、地理的なアプローチで読み解き、地理的な見方・考え方の有用性を実感させ、社会の中で活用できるようにしていく」ということに重きを置いていく。
2.中学地理の役割
授業時間から見ると高校の地理総合は二単位時間、50分×70コマで、時数が少ない。中学校は、週三時間で、日本地理と世界地理をほぼ同じ時間で行う。地域ごとの個別の知識や概念的知識、読図等の技能などといった地理の基礎・基本は、中学校でしっかり身に付けさせ、地理的認識を深めてほしい。
高校における学習活動の仕方も、いわゆる「アクティブラーニング」を意識している。各単元の構成を見ても、〔学習活動〕欄に「主題を設定し、課題を追求したり解決したりする活動」が記載され、知識・技能を活用したり、地理的な見方・考え方を活用し、その深化が求められている(下図参照)。その点において、中学校の地理は、基礎・基本の定着が期待されているのではないかと考える。
(原出典)日本地理学会地理教育専門委員会 「地理総合」に関する講習会(2018年3月23日 日本地理学会春季大会公開講座) 資料「『地理総合』 とは どんな科目か?」
※以下の資料も、全て同じ出典となります。
3.地理的な見方・考え方
中学校で育んだ「地理的な見方・考え方」をふまえて、その活用を高校の「地理総合」で繰り返し行う(「地理的な見方・考え方」は下図参照)。中学校の教員も、授業の中で「地理的な見方・考え方」を意識して欲しい。
例えば、「日本の水田の分布はどのようになっているか」や「和歌山県はなぜミカンの栽培が盛んか」など、具体的な問いや考えさせる授業は中学校で行われているが、その際、「見方・考え方」を意識させることで、社会(的事象)を地理的事象として見出す力がついてくる。この力が、高校の「地理総合」と結びつく。
ただし、これをやりすぎると、基礎・基本となる知識が抜け落ちる危険性もある。知識があるからこそ、「地理総合」が可能になる。基礎・基本の知識とアクティブラーニングのバランスがどうあるべきかについて、すぐには結論は出ないが、こういう課題があることを意識して欲しい。
4.「地理総合」と大学入試問題
アクティブラーニングで身につけた能力を評価する問題をつくるのは難しい。センター試験や受験でどのような問題を作るのか。話し合ったり、自分の意見を主張するといった授業の活動に対して、それを試験でどう評価するのか。特に不特定多数の生徒が受験する入試において採点するとき公平性が担保されるのかが課題である。「授業では成り立っても、試験では成り立たない」という事態が生じうる。
(記録:江戸川区立中学校K先生)
<関連リンク>
◆日本地理学会
◆高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説【地理歴史編】
地理歴史編の35ページからが、地理総合の内容です。
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