第204回社会科学習会は、7月19日(土)に新宿区立牛込第一中学校で行われました。多くの学校で前日終業式があり、夏季休業がスタートしました。当日は、東京都心で33℃を越える暑さでしたが、21名が会場に足を運びき、7名がZoomで参加しました。
今回は、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官小関祐之先生を講師としてお迎えし、「社会科教育に求められていること」という演題で講演をしていただきました。
以下要旨を報告いたします。
1.はじめに
2025年は第二次世界大戦の終戦から80年、昭和100年という節目の年です。世界は平和とは言えない現状があり、日本においても選挙の動向や子どもの人口の減少が止まらない現状から、今後について子どもに教員がどう教えるかが重要になってきています。教員が教えたことは、子どもが学校を卒業するまでの期間内にとどまるものではないのです。子どもが社会にどのように関わるのか、地域社会における役割についても、学んできたことが生かされことが求められています。だから、大人になってからも教員の責任が及ぶのです。そして、教員の認識が授業を通して子どもに伝わるため、何を身に付けてほしいか、どんな力が必要かという考え方が重要になります。
2.学習指導要領をめぐる動向と社会科の課題
令和5年の第4次教育振興基本計画で教育に対するコンセプトや方針が発表され、現在、次回の学習指導要領について中教審に諮問され、会議が行われています。しかし、留意事項としてまだ次回の学習指導要領は決まっていないですので、今の指導要領をしっかり実践することが大切です。
2024年12月の中教審諮問では、チョークアンドトークの授業が多く、主体的に学びに向かうことができていない子どもの存在や、現行の学習指導要領の理念や趣旨の浸透が道半ばであること、デジタル学習基盤の効果的な活用が課題に挙げられました。課題に対し、質の高い深い学びを実現し、わかりやすく使いやすい学習指導要領の在り方、多様な子どもたちを包摂する柔軟な教育課程の在り方、各教科等やその目標・内容の在り方、教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合うことを含む、学習指導要領の趣旨の着実な実現のための方策が審議されています。
社会科に対する子どもの認識は変化しています。平成25年に中学校学習状況調査が行われました。社会科が好きか?という問いに対して9教科の中では真ん中くらいの順位で好きと答える生徒が多かったです。また、社会科が普段の学習に役に立つのか?という問いには特に中学校3年生が肯定していました。前回の調査から社会科に対する肯定的な意見は増加しています。しかし、学校の社会の先生は特に歴史が好きな先生が多いため、中学校3年生で学ぶ公民が短期間で授業が行われるといった各領域に偏りがでるという課題が見られます。
学習指導要領の方向性として、特に「深い学び」の視点に着目すると、深い学びの実現のために社会的な見方・考え方に基づく追究の視点と、問いの設定、諸資料を基にした多角的・多面的な考察といった、社会において汎用的に使うことができる概念にかかわる知識を獲得するための学習が重要です。この「概念」については重視されるべきことであり、概念の獲得に向けた授業の設計やデザインを行っていくことが求められています。中学校学習指導要領解説社会編p.6には平成20年度改訂の学習指導要領の成果と課題が示されている一方で、ここに記載されているものを行うだけではなく、社会科に求められている様々な力を身につけさせたり子どもに将来を見据えた経験をさせたりすることが重要です。
3.中学校社会における見方・考え方を働かせた授業づくり
社会科、地理歴史科、公民科における学習過程のイメージは「課題把握」→「課題追究」→「課題解決」→「新たな課題」です。授業においては「どんな力を身につけさせたいか」を出発点にし、ここからどんな問い・視点を設定するかを考え、それらに到達するために必要な資料を選定するプロセスであり、重要なことは一連の行動を同一の考え方で一直線に結ぶことができることです。社会的事象の地理的な見方・考え方は、社会の諸事象を「地理にかかわる(地理的)事象」として見いだし捉えたり、「地理的な課題」として考察したりする際の視点です。空間的な広がりを示す1枚の写真からは、各視点に関連する主な問いが想定されます。
問いの構造は以下の通りです。まずは、単元を貫く問いで単元を通してどのような力を身につけさせたいのかを明確にします。そして、授業内で設定される本時の問い・小さな問いの連なりを積み重ねることで単元を貫く問いの解決に導いていきます。大事にしたい点は「単元の学習を通して目指す生徒の姿」であり、単元を通して指導内容を明確化し、生徒全員が目指す姿を構想してから、目指す姿へのたどり着き方を考えていきます。
4.中学校地理的分野と小学校社会科、高等学校地理歴史科地理領域科目との接続
小・中学校社会科、高等学校地理歴史科・公民科の目標は各段階において習得するべき力が異なっているものの理念は変わりません。中学校の指導計画の作成上の配慮事項には、小学校社会科の内容の関連及び各分野相互の有機的な関連を図ることが留意事項として記載されています。また、中学校学習指導要領解説には小学校・中学校の学習内容の枠組みとその関係が記されています。そのため中学校の先生方には、小学校の教科書も見てほしいです。小学校社会科においては点でとらえられていた、地理的環境と人々の生活が、中学校社会科地理的分野においては面的なつながりや接続へと変化しています。地理的分野の一貫性の観点からみて、それぞれの学校種での学習を位置づける必要性があります。中学校社会科地理的分野と高等学校地理総合、地理探究の接続を目標からとらえると、同じ視点であるため、中学校において身に着けるべき力や経験をおろそかにすると、中学校が前提で学習が進められる高等学校段階やその先において困ることになるのです。
中学校社会科における各分野の内容のまとまりには、必ず「考察・構想」を行う中項目があります。ここで示されている「考察」は資料を基にみんなで考えていくこと、「構想」は課題に対する解決案を考えることです。中学校社会科地理的分野の構造の最後に位置づけられている、C 日本の様々な地域 (4)地域の在り方は、地域の在り方を多面的・多角的に考察、構想し表現することとされています。この「考察、構想」することは地理総合・地理探究においても必要とされる力になっています。また高等学校における「考察、構想」する力は、中学校社会科公民的分野で学んだことを踏まえて解決策を考えるものとなっています。
5.中学校社会科における考察したり構想したりする学習の充実
中学校社会科地理分野における「考察、構想」する力は「地域の在り方」の学習に求められています。地理的分野 C で学んできた日本に関する知識・技能や、地理事象を有機的に関連付けて多面的・多角的に考察する力、日本の諸地域の地域的特色や地域の課題に対する関心の高まりから、「地域の在り方」では地域の課題の解決に向けて考察・構想したことを適切に説明、議論し、まとめる手法の獲得が目指されます。
この学習で、地域の課題の一般的共通性と地方的特殊性を見出すとともに、地域にみられる地理的な課題を解決に向けた考察は公民的分野の学習につながり、公民としての資質・能力の育成の基礎となっていきます。
「地域の在り方」の学習では観察や野外調査、文献調査などの実施方法を学びます。そのため、活動に適した時期に行うといった年間計画の中で弾力的に実施できるような位置づけとなっています。また、学習プロセスに基づくフィールドワークは様々な方法があり、学習指導要領では生徒が課題を設定し、教師の支援・助言の下、課題解決に向けた探究活動を行う「探究型フィールドワーク」が示されています。学習を行う中で子どもに読ませたり、調べさせたりする資料の選定のほかに、「地域の在り方」で行わせたい学習方法を「地域の在り方」の前段階である「日本の諸地域」で行っていくことで「地域の在り方」の学習が主体的・対話的で深い学びへとなっていきます。
【質疑応答】
・中教審の審議や今回の講演から、パフォーマンス課題が重視されていることが見受けられます。課題のゴールとしてパフォーマンス課題があるのでしょうか。
⇒パフォーマンス課題は課題の一つです。資質能力の活用としての位置づけです。留意すべきこととして課題の位置づけや身に付けさせたい能力の明確化、教員が子どもにどのような経験をさせたいかがあります。
・中学校社会科の地理「地域の在り方」で考察、構想する学習について、公民を学んでいない段階では限界が生じてきます。高等学校など次の段階につなげる目安など、「地域の在り方」の学習はどこまで行うべきなのでしょうか。
⇒ケースバイケースです。学校の性質や生徒の学ぶ意欲などによって地理分野であっても公民分野に踏み込むなど授業者が選択・判断し、工夫をするものと考えています。学習指導要領解説のp75 ~77に「地域の在り方」の学習展開の例が示されています。
0コメント