5月17日に第203回社会科学習会として計画していました「ミニ巡検 東京の尾根と谷 10 玉川上水を歩く…拝島から小平監視所まで」は,雨のため延期といたしました。連絡が当日の朝となり,集合場所にお集まりいただいた方にはご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。巡検は9月6日に実施予定とし,改めてご案内いたします。
(前回の回次を今回に繰り下げました)第203回社会科学習会は,6月21日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場に,元全中社研会長石上和宏先生を講師としてお迎えし,「社会科とともに歩んで」という演題で講演をしていただきました。
以下要旨を報告いたします。
1.はじめに
私はこれまで,これからの人生を前向きに考えさせる授業を行おうと思い実践してきました。例えばアフリカの授業後に,「ああこんな国に生まれなくて日本でよかった」と言わせないようにしようと思い授業をしてきました。授業で大切にしてきたことは,生徒の「見方・考え方」を鍛えることです。
貧しさに耐える教育はたやすいが,豊かさを生き抜く教育,未来を切り開く教育は難しいと言われます。豊かさを生き抜く教育では,生徒が興味関心をもつこと,未来を切り開く教育では,生徒が自分の生活の役に立つと思うことが鍵なのではないかと考えます。そのためには,大きな感動や既得知識を覆す,葛藤場面を作る授業を作る必要があるでしょう。
2.幼少期から企業就職まで
私は幼稚園の頃の記憶がはっきりとあります。この経験から,(幼少期の)子どもを適当に扱ってはいけないと考えます。大学時代は考古学に関心をもち,そこから卒業研究では吉田松陰を取り扱い,松陰を教育学的な視点から研究しました。卒業後は旅行会社に就職し,その勤務時には謝らないで済む対応をよく考えました。これはネガティブな意味ではなく,正社員はマイナスをゼロ以上にする。もしくは,無から有を作り出す仕事であることを学んだということです。教員も,学習が苦手な生徒をわかる・できるようにするなど,同じだと考えます。
3.社会科教員になって
教員採用面接で,「どういう力を子どもに身に付けさせたいのか?」問われたことを覚えています。先生方はどうでしょうか。採用後,教科書に載っていた内容(「人民公社」など)がなくなった時代がありました。この経験から,教科書の内容を疑って教えることの大切さを実感しました。
文科省の渋沢先生との出会いから,地理関係の研究へ向かうようになり,「一般的共通性」を見つけ出す地理の面白さに惹かれていきました。
4.実践について
済美教育研究所の研究員となったときに「子ども理解」の研究を行いました。幼稚園・小学校の先生と共に研究を行う中で,丁寧な観察に感銘しました。この時の経験を基に,学期に一度,担任する生徒全員と5分間の面接時間を取り入れるようにしました。この時のつながりから,後に,総合的な学習の時間で,調べ学習の発達段階における段階性についても提案することができました。
東京都の教育研究生として大学に派遣されたときには,身近な地域の調査を研究テーマとして,読図・作図・現地観察(巡検)・地域調査(描図)の授業展開を提案しました。
オーストラリアに関するビデオ教材等を作成したこともありました。30年程前に渡豪したときに衝撃を受けたのは,弱者の優先順位をどうつけるべきかの議論が行われていたことです。現地に行かないと分からないことで,現地に赴くことの意義があることを感じました。
あるとき,歴史的分野の授業で「歴史まんが」を取り入れ生徒の興味をひき関心をもたせる授業を行ったことがあります。研究協議の場で出された,「漫画には作者なりの人物像や意図が含まれているのではないか。それをそのまま使っていくことは良いのだろうか?」という質問から,より深く教材研究を進める必要性を感じました。
また,社会や社会問題に関心をもたせることも授業づくりにおいては大切です。そして,「市民(シチズン)」としてだけでなく,「市民・国民」としての資質・能力を付けていくことも考える必要があるでしょう。
5.管理職として
杉並区立和田中学校の副校長のときに,藤原和博校長の下で「よのなか科」が行われていました。社会科の立地論などとあわせて,当時社会科では取り扱っていなかった内容も取り入れていました。先進的な取り組みと評された一方で,優秀な教員は,すでに類似の実践を行っていることも多いですし,先進的な取り組みは他地域でも行われているものであることも学びました。副校長時代は,正解ではなく納得解を作り出すことの大切さを感じました。また,私立と違う公立校らしさは何か?をよく考えました。学校では,人・もの・金のマネジメント以外に,時間と情報のマネジメントが大切です。和田中時代には,教育を数字(1授業のコストは?)やスピード(70%程度OKで初めてみる)の視点で捉える視点を得ました。また,安全は多くの人の目で守ることができると学びました。
教育改革は生徒の満足がないとできないのではないかとも思います。また,情熱をもって本気で何かを始めると,誰かが助けてくれることを実感しました。
6.様々な研究会,勉強会への参加
都中社研では3分野の専門委員会に全て顔を出しました。多くの先生から刺激を受けることが,今の若い先生方には必要だと感じます。
7.今関心をもっていること
社会科は,私に常に考える視点やきっかけを与えてくれました。世界はどうなっているのか,どうなっていくのか? という疑問を解決するために,積極的に海外に行くようにしています。
第二次大戦後,戦争をしていない国は数えるほどしかありません。現代では,国よりも企業利益が優先されているのではないか?と感じることがあります。戦争で儲かる人がいることが,戦争につながるのではないでしょうか。その点から,平和学習をどのように考え,進めていけばよいのだろうかと思います。社会科から切り離された道徳や,倫理は現代においてとても大切だと考えます。人としての生き方あり方が問われています。特に,異なる宗教をどうとらえ,どのように接していくべきかは世界的な課題です。
私はずっと,主体性と自主性,国際化とグローバル化の違いなど,言葉の違いを大切にしたいと考えています。例えば「自主性」は,決められた範囲内で自ら率先して行動する性質。「主体性」は,自らの意志や判断で目的を設定し,その達成のために責任を持って行動する性質という違いがあります。「グローバル化」を進めることは国境があることが障壁になることも出てきます。国同士の関係を深めていくことが「国際化」です。学習指導要領でも「グローバル化した国際社会」や「持続可能な社会『づくり』」と表現しています。
8.おわりに
子供の巣立ちを支えるのが教員の仕事です。自分の翼で飛び立っていけるようにいろいろなことを教え導くことが教師の仕事です。
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