第 201 回社会科学習会は,3月8日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。
今回は,玉川大学教育学部教授 濵田英毅先生に「近年の高等教育の動向と体験学習の意義」という主題で講演を頂きました。その後、濵田先生が指導されている「日本史学・歴史まちづくりゼミ」に所属される学生の谷脇さん、粕谷さん、山下さんにフィールドワークの実践について発表をしていただきました。
会長の峯岸誠先生から「コミュニティスクールの設置など,地域連携の重要性が叫ばれている。社会科教員として任地として赴いた以上は,地域への理解を深め,身近な地域の調査等をしっかりと進めていきたいものである。」と挨拶があり,学習会が進められました。以下要旨を報告いたします。
1. 近年の高等教育の動向と体験学習の意義(濵田英毅先生)
未来の教室像のキーワードは「デジタル・STEAM・探究」です。「デジタル」はGIGAスクール構想による端末整備により,手段(ツール)としてのICT利活用,生成AI等も活用する個別最適な学びの実現に繋がるものです。「STEAM」・「探求」は教科や分野を横断するテーマについて探究する学習で,小学校などでは教科担任制を敷いていることでやりやすい側面がありますが,中等教育以降は学校段階が上がる中で専門性の高さが上がり,教科間のハードルが高くなってしまう側面を打破していく必要があります。大学教育ではissue(本質的な課題)が重要となります。社会課題を見据えるうえでissueを考えることが,中等教育で求められてくる教育的課題とも考えられます。
このような教育の根底にある社会観はSociety5.0です。社会科も理数分野を意識して授業を組み立てていく必要性があります。
大学では,データサイエンス・統計の授業が必修になっているところが多くなりました。高等学校で「情報」が必須となり、共通テストの出題教科となったように,これらを理解していることが大学教育の基本となり,それができていないと協働ができないレベルになっています。大学教員もリスキリングが求められています。 2月21日に出た中教審答申では,「知の総和」の向上,すなわち総合知の向上がうたわれています。STEAM教育,リベラルアーツの重要性がますます問われています。 経済界は「課題発見・解決力」を求めています(経団連資料)。自分で課題を「発見」し,探究していくスキルを,教育現場だけではなく経済界も求めているのです。課題解決型の授業も大切ですが,「課題発見型の授業」を社会科としてどのようにできるか,考える必要があります。
また,「深く考える」ことも大切であるのは言うまでもありません。原体験などの身体的体験,すなわち考える土台がないことには,深く考えることはできないでしょう。デューイなどは①問題に直面したときに,問題があることに気付く,②問題を分類整理し定義する,③可能な解決方略を探究する,④結果を予測し,計画を実行する,⑤結果を振り返り,予測を検証する(H27国研資料「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書1」p.98)と言っています。さらに,「システム思考」も役立ちます。これは歴史学や企業経営者の視点と同一のものです。複雑な影響の与え合いを分析的に思考することは,複雑で予測が難しい社会のこれからを考える力にもなるでしょう。物事を分析し考える手法のもう一つに,独立変数と従属変数で因果関係を考える方法もありますが,これら両方の思考で考えていくことができると良いのではないでしょうか。
企業の考え方にみると,0から1を生み出す力が求められますが,その力をどの教科でつけていくのかは今後の課題だと思われます。「水平的思考」も柔軟な思考の際に役立つ考え方です。
フィールドワーク(以下,FW)に出ると,土地の違和感を持つことがあります。目の前の景観から違和感を発見することは,「批判的思考」とも言えるでしょう。普通のものを普通で済まさない態度,当たり前と思っている中に当たり前ではない状況があることを,教師は子どもたちに伝える必要があるでしょう。それは,言葉で伝えるよりも,現場や実物に触れる中で感じさせたほうが良いように考えます。ここに体験学習の教育的意義があるのです。約20年前に出された「「体験活動事例集-体験のススメ-[平成17、18年度 豊かな体験活動推進事業より]」」の「1.1.体験活動の教育的意義」にこのことはすでに書かれています。今一度,そこに立ち返って考える必要があるのではないでしょうか。
2.フィールドワークの実践と学校教育への応用について(学生発表)
今回は,学生が古代の人々の生活感覚を再現しながら地域をとらえることを目的に,「小野路」を対象に歴史的・空間的に地域をとらえるFWを設定しました。FWを通して学んだことや社会科教育へ落とし込む際のポイントについて考えたことをゼミ生3名が発表します。
(谷脇さん)
探究学習(FW)の実践を通して,現地に行くことの重要性の理解,イメージを高める重要性(概念的知識の形成),事実的知識の必要性,歴史に思いをはせることがその大きな目的であると考えました。事前調査や事後学習を含めて,現地での体験は学びの本質の向上に繋がると考えます。
事前調査では,現地で得られる学びの効果を高めること,情報を収集・整理する力を育成すること,文献調査の必要性を見出すことができます。現地では,五感を通して感じることが学びを促進し,課題発見能力や問題解決能力を高めます。また,地域を地理的な見方から捉える力が身につきます。
社会科教育では,課題の設定⇒情報の収集・整理・分析⇒まとめという探究学習の流れをとりながら,探究過程を通して論理的思考力や批判的思考力,創造的思考力を身に付けたり,生徒の自主的・実践的な態度,自身のもつ興味関心を引き出すこと,情報活用能力を習得させることができると考えます。
今回は3Dプリンタを使って,FWした地域を立体模型化しました。一目で地形を把握したり,地域の特徴や土地の役割を理解したりすることができました。このようなツールを使うことで,多くの人が学びに参加しやすくなり,教育的なコミュニケーションの向上に寄与すると考えます。
FWの評価については,先行研究の論文(沼畑早苗,2019)で示されていたFW自己評価表を活用しました。
FWを通して,知ることより感じること,社会とのつながりを感じることが重要であると感じています。
(粕谷さん)
中学校社会科では,空間的,時間的,多角的,課題解決の4つの思考の視点の獲得が求められていると考えます。鳥獣戯画の一場面(甲巻 巻頭)を見てみると,様々な解釈ができるのではないでしょうか。これは多面的な把握の例ですが,フィールドワークでも同じようなことができると考えます。
FWでは「?から!」,すなわち,疑問を発見し,そこから調べるなどして納得に至る過程が重要だと考えます。FWと類似の言葉に「巡検」があります。指導者(教師)・案内者が中心となって行うFWですが,初めて巡検に出た時に講師が「気付いたことをたくさんつぶやいてほしい」とおっしゃっていました。学校で巡検をする際にも,子ども達にたくさんつぶやかせることが大切ではないかと考えます。
中学校では,FWの時数確保や生徒の安全確保が課題です。そこで,総合的な学習の時間とのコラボレーションも考えられます。一方,それが難しい場合は,社会科の授業の1単位時間で行うことも考えられます。それも難しい場合は,教師の?や!を追体験させることも考えられると思いました。
(山下さん)
私は文献調査の担当(地域資料班)でしたので,FW後に文献調査を主に担当しました。探究活動を通して,城があった場所を特定することの困難さに直面しました。インターネット情報の取り扱いをどうするか,複数の地図資料から位置情報を抽出することなどです。メディアリテラシーの育成,情報のプロである司書へのレファレンスの活用の必要性が重要であると考えました。AIを活用して得た情報を図書館資料で裏付けることも今後は大切であろうと考えます。その意味で,「AIの活用は『批判的思考力』を鍛えるための手段となる」と言われています。また,資料がどの立場で書かれたものかを意識することも大切なことです。
限られた時間の中で学習を進めるにあたっては,これらのことを意識しながら,カリキュラムデザインをすることが大切だと考えました。
FWでは,現地の方から直接お話を伺う機会もありました。このような機会を通して,地域の住民と交流し,地域への愛着を高めることもできると感じました。また,前出の3Dプリンタの模型を展示しているときに現地の方から「模型に表現されている情報に,時代が違うものが混在している」という指摘を受けました。今回は「新選組」との関わりをテーマに作成したのですが,1つの時代に注目しすぎたことで,時代による土地の移り変わりという視点が抜けてしまったことが反省点となりました。
<質疑応答>
・中学生をFWに連れていくことを想定すると,事前学習で予備知識をもって臨むことは必須であろう。今回はどのような事前準備をしてFWに臨んだのか?
⇒今回は事前の予備知識なしでFWに臨んだが,小野路のエキスパートである「歴史古街道団」の方に案内していただいた。FW後に,地域の歴史等についてさらに追究し,さらに現地に赴いた班もあった。地域の環境について追究する班は,道のゴミに対する問題について見出していた。
・地域探究をした成果を発表・発信する良いアイディアはあるか?
⇒私たちは5分程度の動画を作りYoutubeで発表した。また,SNSで成果を発信することも行っている。地域への還元という意味では,地域の新聞の広報欄に掲載してもらうことも考えられると思う。
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