第196回社会科学習会は、2024年10月12日(土)に、牛込第一中学校で開催されました。今回は、講師に宮川泰之先生(町田市立南大谷中学校 教諭)をお迎えし、『社会科プレゼンテーション(地理的分野の事例)』と題した講演をしていただきました。
宮川先生は、町田市立中学校の特別支援学級から教員人生をスタートし、現在は通常学級でお勤めです。また、勤務しながら大学院に進学し、中学校社会科・地理的分野の「地域調査の手法」の単元について研究を進められています。
1.はじめに
宮川先生が考える社会科の目標として、
①生徒が主体的に社会的事象について知る
②生徒が主体的に社会的事象について自分の意見を持つ、行動する
があります。そのために、一方的な講義型の授業にならないように工夫し、授業の中に「プレゼンテーション」を取り入れています。その背景には、「社会科,地理歴史科,公民科における学習過程のイメージ」(幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別添資料3-6)の中で、課題把握→課題追究→課題解決→新たな課題と学習の流れが示されていること。また、「主体的・対話的で深い学びの環境とICT[新装版]」(久保田賢一・今野貴之 2022)における真正な活動のための10の視点を根拠にしています。
そして、教科のみならず、他教科との連携も意識(例えば、美術科とコラボして模擬選挙に使用するタスキを作成するなど)して日々実践を重ねられています。
2.地理的分野日本の諸地域の授業実践紹介
大きな学習のまとまりの導入的なものとして、プレゼンテーション活動を取り入れた実践になります。授業では以下の目標を意識して取り組ませています。
(1) 仲間と協力してプレゼンテーションに参加し、協調性を身につける。また、日本と他国、町田市の社会生活について比較することを通じて、その関連に気づき、今後も学び続けようとする意欲や態度を養う。
(2) プレゼンテーションを通じて、「話す」「聞く」「読む」「書く」といったコミュニケーション能力の基礎を身につける。また、日本の諸地域の魅力が伝わるゆるキャラの作成を通じて、「創造性」を養う。
(3) プレゼンテーションの際にクロムブックを活用し、スライド・発表原稿・ゆるキャラを作成することを通じて、資料の読み取り、有用な情報を選択・活用する技術を身に付ける。その際、「調べ学習」の方法を習得する。
(4) プレゼンテーションを通じて、日本の諸地域の自然環境や人口・都市、産業などについて、理解を深める。また、探究的な学習に取り組む際の基本的な手法についての知識を身につける。
(5) プレゼンテーションを通じて、メディアリテラシー(メディアを活用し、情報を正しく読み解き、収集・受容し、発信・伝達する力)を身につける。
この単元では、それぞれの日本の諸地域学習に入る前に、生徒の興味・関心に基づき、1時間目には自らが調べたい地域の「自然環境(地形)」「自然環境(気候)」「人口・都市」「第1次産業」「第2次産業」「第3次産業」を設定させます。2時間目~5時間目までは最後のプレゼンに向けて、生徒一人に対して4枚程度のスライドを作成させますが、1枚目は「担当テーマについての概要」2枚目は「他国との関連(共通点や相違点)」3枚目は「町田市との関連(共通点や相違点)」4枚目は「今後の課題(調べたいこと)」としています。ここでの工夫としては、共通点や相違点を意識させることで、汎用的な知識や概念的知識の獲得を目指し、身近な地域の町田市と関連させることで、学習内容を身近に感じてもらうようにしていることです。また、生徒間における学習の進捗状況を補填するために、自らの選んだ地域のゆるキャラを作成させています。
調べ学習においては、「有能な情報を選択・活用する」ためのポイントとして、①最新の資料を精選する②「一次資料」を精選することを指導しています。
6時間目~8時間目は発表をグループで行い、相互評価を行わせています。ここでの発表は、教師だけでなく、生徒の保護者や校長先生なども参観していただくことも多く、様々な人の前で発表することを通して、緊張感や苦手意識を克服させています。
これらが日本の諸地域の単元の導入にあたり、ここから各諸地域への学習に入っていきます。生徒はこの導入でのプレゼンテーション活動により、さらに自分が興味を持った内容について学びたいという動機を持ち、授業内で生徒自らが調べた内容を活用した授業展開を行うと、生徒が授業づくりに参加しているという自己有用感が高まっていると感じています。
3.実践報告のための資料
実践報告のために、31ページになる資料を準備していただきました。
その中に、社会科授業の取り組みの様子を紹介した学年通信『Diamond』がありました。『Diamond』には、1年生の時に学んだ「人々の生活と環境」プレゼンテーション、アジアツアー2023「おすすめ修学旅行プラン」を考えよう、「ヨーロッパ州の国々のキャッチコピー」を考えよう、世界の諸地域プレゼンテーション という学習について紹介されています。各号に生徒のふりかえりの一部が掲載されていますが、学習によって生徒が成長している様子がわかります。
2年生の『Diamond』に、「日本の諸地域」プレゼンテーションについて取り組みが掲載されています。生徒のふりかえりの中に次のような記載がありました。
◎同じ日本なのに地域が違うとこんなに違うということを知ることができた。また、東北地方と町田市の共通点なんてないと思っていたが、調べてみたら意外と出てきてビックリした。
◎探究〈課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現〉の形を意識できた。
◎すべての地方の発表を聞いていると、共通していることもあり、「地域の課題」から「日本の課題」になるものが自然に見えてきてとてもためになった。また、各地方ではその地域の特色を生かした産業が発展していて、それぞれに歴史があって面白そうだと思った。
資料には、テーマ・事前準備のためのワークシート、授業スケジュール、スライド作成のポイント、ゆるキャラについて、家庭でクロームブックを使うときのルール、探究の進め方、「課題設定」について、「情報の収集」のための「調べ学習」について、「整理・分析」について、「まとめ・表現」について、発表・相互評価、町田市立図書館の学校図書館支援貸出などについて示されていました。生徒用に準備した資料や宮川先生の資料についての考え方が述べられ、それらについてお話しをいただきました。
<質疑応答>
・日本の諸地域の導入として調べた内容を諸地域学習で生かされた場面はありましたか。
→授業や校外学習の時、生徒の調べたことや写真などを紹介したり使ったりすることがあります。日本の諸地域の内容を通じて課題を設定し資料を読み取ってまとめて発表する学び方を学ぶということに重点を置き、2学期、扱うことが違う単元でも生かされていくと考えています。
・パソコンを開くとAIが答えるような状況にありますが、AIをどのように使いますか。
→ChatGPTを使っていろいろな考え方や結果がでてくる中でも子供たちが学べるような発問や課題の設定が大事と考えます。最低限の知識を知っていないと判断ができないので、基礎・基本のベースの上で判断があるので知識を学ぶことを大切にしています。
・社会科でしかできないこと、他の教科でできること、他の教科でもできるけど社会科でやった方がやりやすいことがあると思いますが、社会科と他教科とのコラボレーションでできること、他の教科とのプレゼンテーションを活用した事例があれば教えてほしい。
→一学期に1回ぐらい冊子を作って発表させているのですが、教科書で教えるという意識を持って取り組んでいます。社会科と総合的な学習の時間との関係、社会科でやった方が良いか他の教科でやった方が良いか考えています。調べてまとめて発表することは理科でもやっており、他教科でできる部分もあると思います。美術、音楽、国語、英語などとの連携を考えています。
・探究的な学習では課題を生徒自身が決めて行うことが多いですが、ゆるキャラを作ることを課題としているのですか。
→テーマについて視点を定めて調べまとめる学習を進めつつ、合わせてゆるキャラを作る課題も設定しています。
次回の社会科学習会は
第197回 11月16日(土)15時~
会場:新宿区立牛込第一中学校
内容:全中社研 北海道大会の報告
・大会について
・都中社研発表(歴史的分野)
報告者:中野区立明和中学校 長井利光先生、練馬区立石神井西中学校 今村吾朗先生
です。ぜひご参加下さい。
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