第193回学習会の報告

 第193回社会科学習会は、令和6年6月15日(土)に新宿区立牛込第一中学校において、玉川大学教授濵田英毅先生を講師にお迎えし、「社会科教師のためのプロンプトエンジニアリング入門」を主題として「授業における生成AIの活用」についての講演をしていただきました。

 濵田先生は、玉川大学教育学部教育学科で、日本史概論、歴史資料情報論、インターンシップなどの授業を指導され、日本史学・歴史まちづくりゼミでは、当時の「臨場感」を再現できる優れた歴史の語り手を目指す視点で歴史の学びを進めています。3D地形データの活用による教材のDX(デジタルトランスフォーメーション)などデジタル技術を活用した社会科指導の工夫について提案されるなど次世代の情報能力の育成にも努めています。

 今回は濵田先生のご紹介で、株式会社みんがく代表の佐藤雄太様に生成AIの教育現場での活用について講演していただき、生成AIの活用について体験学習をしました。

以下、濵田先生と佐藤様の講演の要旨を紹介いたします。


1.濵田英毅先生の講話「社会科教師のためのプロンプトエンジニアリング入門」

 プロンプトとは、生成AIに行動させる言葉、エンジニアリングとは、あやつる技術を指します。次期iPhoneにはChatGPTが搭載されると言われており、将来生成AIの使い方について生徒に教育できなければ、生成AIは危険なものとなるかもしれません。

 AIの影響を受けるリスクが高い職業に、大学の歴史の先生など、高等教育の教員が挙げられます。これは初等中等教育の教員にも言えることで、新しい技術に柔軟に対応していく必要があるでしょう。

 ある子どもが、夏休みの宿題の作文のテーマに悩んでいたところ、生成AIに相談して作文のテーマを決めることができたそうです。そこまでの個別指導が、果たして現状、教師にできているでしょうか。また、生成AIを活用した教育現場の事例として、社会科の授業で地域調べを行い、そこで獲得した知識を生成AIに指示してオリジナルの「ゆるキャラ」を作らせた事例や、大学のゼミのテーマソングを作らせた事例などが挙げられます。

 これまでの社会の急激な変革の事例として、1907年に登場したT型フォードが挙げられます。わずかな期間で、街を行く馬車は自動車にとって代わりました。この変化を、当時の誰が予想できたでしょうか。ChatGPTが100万ユーザーに達したのはたった5日です。今や生成AIは、大手企業や自治体でも活用が進んでいます。いかに業務効率化や創作に利用できるかを、多くの人が考えているのが現在の社会状況です。まさに社会インフラ、社会の共通基盤となりつつあると言えます。使わなければ意味がないものになっているのです。

 以上のことから生成AIについては、自転車や自動車の運転と同じように、制御と操作の方法を学び、危険を回避する方法を学ぶことのほうが大切ではないかと考えます。

 しかし、生成AIには特性があり、この点をよく理解して使う必要があります。

特性①:ベクトル化された言語から高度な推論による予測をして長文を生成しており、文章の意味を理解しているわけではない。たまに論理がおかしくなってしまうことがあるのはそのせいである。

特性②:幻覚のような事実にもとづかない情報を生成することがある。現在ではRAG(検索拡張生成)技術により制度が向上しています。

特性③:入力したデータがAIの学習に使われるかどうかの問題があり、設定によっては情報漏洩につながるおそれもある。(教育現場ではAIの学習に利用されない設定にすればよいだけのこと)

 生成AIは「超優秀だが今あったばかりの人」だと考えればよいでしょう。すなわち、身近なことは何も知らないため、現場の環境の説明や現状の説明など、現場の臨場感をAIに人間が伝えることが必要です。歴史人物を授業で扱うことと同じで、時代背景などがないと歴史人物の行動や考え方は深く理解できません。社会科の教員は、この臨場感を授業で作り出すことに長けています。だから社会科教師がAIを活用すべきだ、と言っているのです。

2.株式会社みんがく代表 佐藤雄太様の講話

 私は、塾などの民間教育の質をテクノロジーによって高めることを目的として起業し、現在は生成AIの現場への導入や研修に力を入れています。

 生成AIの魅力は、個別最適化のラストピースである点です。例えば、ある数学の問題について、「答えを教えないで、子どもが解けるように導いてほしい」という要望をAIにすると、現在では人間と同じようにリアルタイムで考え、教えてくれるほどになりました。

 また私は、AIが教師の職を奪うのではなく、AIを使いこなせる先生が、使いこなせない先生の職を奪うと考えます。生成AIをつかえば、教師の能力が拡張する。その素地はもう整っているのです。2023年を境に、それ以前は学習ログから適切なアドバイスを選択する程度だった技術が、2023年以降は加速度的に進化しています。生成AIの主な利用のされ方として、①業務効率化、②指導の個別最適化、③生徒が生成AIに触れるプラットフォームへと展開しています。

例 自由研究お助けAI https://benesse.jp/kyouiku/jiyukenkyu/

  atama+ 英単語学習 https://corp.atama.plus/news/1359/

 人間の未来予想には限界があり、生成AIは予想できないレベルで進化するかもしれません。今後は、次の3つの方面で進化すると考えます。

①生成AIのマルチモーダル化が進む

例) Sora 言葉の指示→動画 AIが目や耳を持つ時代に

    NoLang 解説動画作成サイト

②データベース参照化

 例)東京書籍 教科書コンテンツを基に回答するサービス、キャラクターを自分で選べる

③ユーザーの開発者化 教師自身が開発者になれる

 →教育の痛み(課題)や悩みはローカルなもの、個人により違うもの

  現場の生徒の個性、状況に合わせてアプリ開発、カスタマイズができるように。

 例)SchoolAI

いずれも、自らの教え方、指導方針を言語化する(そして、AIに指示する)力が求められます。言い換えると、自分とは何者かを言語化すると、自分と同じような教え方をする分身AIができるのです。


3.プロンプトエンジニアリングを体験する(濵田英毅先生)

 生成AIは、知識を聞くために使うものではありません。知識を聞くならGoogleのような検索のほうが良いです(ただし、Perplexityは出典を示してくれます)。生成AIの強みを生かすことが必要です。生成AI活用のメリットとして、

・プロンプトによってAIが立場を変えて考えてくれるため、多面的多角的な思考につながる。

・生徒が仮説をもち、それをAIに聞くことで、答えてくれることが、課題解決学習につながる。

・AIの回答は専門性が高い

ことが挙げられます。ただし、抽象的な次元の問いや思考モデルを使った考察には強いですが、個別具体的な場に関する問いには弱いのが特徴です。

どのようなプロンプトをAIに入力すればよいかについては、野口竜司さん、深津貴之さんのYoutube動画が分かりやすいです。参考にしてみましょう。

体験】7Rに基づく、長文プロンプトを作成して見る

7Rとは…Request / Role / Regulation / Rule / Review&Refine / Reference / Run scenario

Reference→指導要領の見方・考え方をコピペするなど、正確な情報を与えること。考えるための状況を私たちが言語化する力を高めることで、より精緻な反応が返ってくる。


4.おわりに~今後大切になってくる力

・課題発見能力…課題(問い)が見つかっていないと、生成AIは使えない。

・評価する力…何が正しい、正しくないかを分析する力がないと、生成AIは使えない。

※東大 松尾研究室の資料を参考に

・協働的・対話的に学ぶ力…先哲に学ぶ=生成AIを使うこととも通ずる

・個別最適な学び…自らプロンプトを作る力=問いや課題設定をする力

とはいえ、難しく考えず、一つ一つ使っていくことが大切ではないでしょうか。


(質疑応答)

・濵田先生が考える生成AIを使った授業のイメージは?

・歴史的な事実についてどう思うかをAIに聞くと簡単に答えてくれる。レポートなどをどうすればよいのか?自分の答えでないものが多く出てくると、評価が難しくなる。

→現実の社会の課題を解かせるようなレポート課題を出していくことを中心にすればよいのではないか。知識が身体化されないと意味がない。その意味では、今後論述試験が意味をもってくるのではないか。

・歴史教育において、一次資料の読み取りを行う中でAIが支援してくれたりもすると思うが、資料の読み取りの力をどう考えるか。

→生データをどう扱うか、歴史上の一次資料をどう読み取るかは今後も大事。資料の背景にどういったものがあるかを考えることが大切なのは、プロンプトを打つのと同じ。汎用的スキルと結び付ける指導も大切ではないか。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

0コメント

  • 1000 / 1000