第189回学習会の報告と次回以降のご案内

 第189回社会科学習会は、令和6年2月17日(土)に新宿区立牛込第一中学校において行われました。今回は、東京学芸大学附属世田谷中学校の金城和秀先生に実践発表をしていただきました。今年度6月に行いました東京学芸大学附属世田谷中学校公開研究会の研究概要と金城先生が取り組まれました中学校社会科公民的分野「現代社会の特色」の指導について発表していただきました。

 金城先生は、杉並区、品川区の区立中学校に勤務され、平成31年4月から現任校で勤務されています。教員としてスタートして以来社会科学習会に参加され、教科指導、校務分掌、部活動に力を注ぎ、東京都中学校社会科教育研究会の研究活動などでも活躍されています。以下、発表概要です。

1 本校社会科の特徴

・「学習課題を発見する力」「批判的思考力」「概念的知識」の育成を重視し、身近な「なぜ」「どうして」から、グループワークを中心に議論して学ぶことを意識しています。学びを教室にとどめることなく、外に発信していくようにしていることが特徴です。

・「総合的な学習の時間」のうちの一部を「テーマ研究」という名称にし、教科の枠を超えて、設定した課題に取り組む学習を行っています。株式の授業では、経済ジャーナリストの後藤達也氏を招いて学びを深めています。

・現職教員研修セミナー「社会 世田谷ゼミ」を毎月第3土曜日の17時から19時まで実施しています。ONLINEでも参加でき、ホームページから入れます。


2 学校研究主題における社会科の視点

・学校研究主題は、「情報活用能力を育むモデル単元の開発~資質・能力をベースとした教科横断による実践を通して~」として、①各教科の情報活用能力の検討と授業実践の再考、②情報活用能力を育むための手立ての開発、③情報活用能力を育むモデル単元の設定、について令和2年度から研究を進めています。

・令和3、4年度は「社会科における情報活用能力とはどのようなものか」という視点で授業実践と協議を深め、社会科における情報活用能力を以下の2点に絞り込みました。

①情報編集力(自分にとって必要な情報を収集し、それを他者にわかりやすく伝えたり社会に発信したりするために分類や整理をする力であり、自らの意図・意思によって、情報の性質をより良く変化させるもの)

②責任を伴う情報発信力(自らの意思のもと、整理した情報を伝える対象者の状況を多面的・多角的に検証し、他者や社会に対し責任をもって表現する力であり、学習課題や社会的課題に対して、根拠に基づいて「自分事」として考え、発信するもの)

本年度は、モデル単元を検討し、学校研究の②について取り組みを行っています。

 

3 社会科の研究主題の背景

・先行きが不透明で将来の予測が困難な時代(VUCA時代)を生徒が生き抜くために、「学習課題を発見する力」「批判的思考力」「概念的知識」の育成を重視してきましたが、これからの時代を生き抜くための資質・能力を育むためにはこのことで十分か疑問が湧いてきました。

・教育の目的が人格の完成にありますので、これからの社会科は、扱う社会事象に関わる人々、「自分自身」や「他者」のことを考え、「情動」や「感情」も考慮した生徒自身の考えの構築や社会への発信になるように指導する必要があり、子供たちが社会科を学んで良かったと思えるようにと考えています。

・中学校学習指導要領社会の目標の(1)から(3)に示された資質・能力を育成することが「公民としての資質・能力の基礎」を育成することにつながることが示されていますが、その(3)に述べられている「態度の育成」や「尊重することなどの自覚の育成」などのためには、学んだことと「自分自身」や「他者」、「外の世界(社会)」と結びつける必要があると考えます。その時に、自他の「感情」や「情動」ついて考えていることや知ること、あるいは想像することによって社会で活用できる学びとなると考えています。

・現在の教育が求められているものは、エモーショナルな力(単なる「感情」だけでなく、そこから構成される「人格」や「人間性」が含まれる)であり、そのことが授業に生かせないか追究しました。


3 本校社会科の研究主題について

・社会科独自の研究主題として、グラフやデータからの根拠+人々の立場や自他の「感情」を意識する必要性があるのではないかと考え、「ソーシャル&エモーショナルラーニング(SEL)の視点を取り入れた社会科授業の実践」としました。SELとは、自己の捉え方と他者との関わり方を基礎とした、社会性(対人関係)に関するスキル、態度、価値観を身につける学習です。

・SELの能力を社会科の授業内に意識的に位置づけて授業を行うためには、「最適解」と「納得解」という概念の育成と活用が必要であると考えました。さまざま社会問題を解決するためには、多くの人が納得する解を導きだすことが求められています。

・「最適解」は最も正しいと考えた解や合意内容であり、「納得解」は関わる多くの人が納得するように考えた解や合意内容であり、両者の間にあるものが「感情(SELの視点)」と考えています。

・「最適解」から「納得解」を考えさせる時に、「感情(SELの視点)」を意識させることで、情報活用能力の育成や社会でも活用できる概念の習得につながると考えています。


5 実践授業について

・単元 中学校学習指導要領 社会 公民的分野 大項目A 私たちと現代社会

 中項目(1) 私たちが生きる現代社会と文化の特色

・単元の指導計画(全5時間)

1時 少子高齢化(本時)

2時 情報化

3時 グローバル化

4時 伝統文化の継承と創造

5時 単元のまとめ

・本時の内容

ⅰ目標

・「最適解」と「納得解」の間にあるものを考え、現代社会における新たな見方・考え方として概念化する。

・「誰もが幸せに感じる社会」を考えるために、これから学習する公民的分野の内容に対して興味を持つ。

ⅱ本時の展開

導入 〇少子化問題について

・日本の少子化について知る。(新聞資料を活用し、合計特殊出生率の低下、人口の自然減少について理解)

・少子化が進むとどうなるかを考える。(知っている内容を発言させるとともに、懸念されていることを補足)

・政府が打ち出した「異次元の少子化対策」の内容を理解する。(資料をロイロノートで配布)

展開 〇少子化対策について多角的に考える。

・自分たち中学生にとって、この少子化問題、政府の異次元の少子化対策はどのように感じるか、話し合う。(話し合いをさせ、何人かに発表させる・ペアワーク) 

・政府の少子化政策を様々な人にどのように映るかロールプレーを行う。(ロールプレイ「政府の異次元少子化対策は私にとってどう感じる?」を行うための役割分担を行う。)

・配布された資料から、その役割の心情を創造して、「感情メーター」を作成して、グループで発表し合う。(役割を演じるための資料をロイロノートで配布。感情メーターを作成するため「プルチックの感情の輪」のワークシートを配布。役割を演じる資料の読み込みと感情メーターを作成する時間を取る。ロールプレイを4人で行う。)

〇ロールプレイの振り返り(生徒に感想を聞く。子供を持たない選択する人や女性を雇用することを断念する企業判断の背景に現代社会の諸課題が背景にあることを気付かせる。)

〇少子化政策の最適解と納得解を考える。(少子化問題について最適解と納得解はどのようなものか考えさせる。BingAIに「子育て政策の最適解」を打ち込み内容を理解する。「子育て政策の納得解」を打ち込み、答えが出てこないことを理解し、納得解こそ人が考えるべき重要な解ということを理解させる。)

・最適解と納得解の間にあるものは何か考える。(新聞資料を活用し「誰もが幸せを感じる社会」こそ、「子供を産み育てやすい社会」になることを読み取らせ、納得解とする)

・社会全体で少子化問題を考え、解決していくことが必要なことを理解する。(最適解から様々な人々の「感情」を意識し、納得解を考えていくことが「共生」につながっていくことを理解させる。子供を持つ、持たないにかかわらず、誰もが幸せを感じる社会を構築することが大切だと理解させる。)

まとめ 

〇「誰もが幸せに感じる社会」へ

・「誰もが幸せを感じる社会」とはどのようなものか考える。(そのような社会を達成するために必要なこと、そのためにどのようなことを勉強したいか考える。考えた内容がこれから公民的分野で学ぶ内容であることや、社会的事象を考える上で、自らの判断で最適解や納得解を考えることが大切であることを説明する。)


5 まとめ・質疑

・政府の異次元の少子化対策について具体的な資料を作成し、異次元の少子化対策は私にとってどう感じるか、ロールプレイを取り入れて考えさせました。結婚や子供を持つことなどに関する様々な考えを持つ8タイプの演じる人々を設定し、生徒に選ばせ、選んだ人の感情をグラフ化してロールプレイをさせました。社会にはいろいろな人がおり、政府の対応がいやに聞こえる人もいることなどに気が付いた生徒もいました。合理的に判断し、選択することで少子化問題には、現代社会の諸課題が関係していることに気付き、少子化対策の最適解と納得解について考えることができました。

・「最適解」と「納得解」という新たな見方・考え方の是非について、また、それをつなぐものとして「感情」の考慮(SELと取り入れた社会科学習)、単元を貫く問いの設定はどうだったか。さらに、「誰もが幸せを感じる社会」について、生成AIの活用について、皆さんからご意見を頂きたいということで、質疑応答を行いました。

<意見や感想など>

・感情に視点をあてて社会学習を展開する新しい試みであり興味を持ったことができました。

・最適解と納得解は「安全(科学的根拠)」と「安心(感情的)」のような理解でよいか。また、納得解は個人としての解と、社会としての解のどちらなのか。

・学習の展開にあたっては、教師の人間性が重要となるのではないか。

・社会事象のもつ多面性に着目して様々な観点から総合的に考察し、誰にとっても納得解であるものを得るようにしたい。

・生徒に形成される社会認識についてはどのように考えて授業をされたか。生徒が政府の政策を批判的に捉えた後、最適解をAIに聞くだけで十分だったか。

・生成AIは、避けて通れないので使い方を勉強して授業で使っていくようにしたい。


次回の社会科学習会(第190回)は以下の日程で行います。ぜひ次回もご参加ください。

日時:3月9日(土)15時~ 場所:新宿区立牛込第一中

内容:会員の実践発表「専門実習10週間の授業を振り返って―成果と課題―」

玉川大学教職大学院生 岩切大樹さん、土田 翼さん、原光虹朗さん


社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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