第188回学習会の報告と次回のご案内

 第188回社会科学習会は、令和6年1月20日(土)に新宿区立牛込第一中学校において行われました。今回は、荒川区立第九中学校の一刎めぐみ先生、児玉直哉先生に授業実践について発表していただき、同夜間学級副校長を務められる髙橋勝彦先生に夜間中学についての発表をしていただきました。

 峯岸誠会長から「元旦から大きな震災、事件が頻発しましたが、辰年は激しく動く年ともいわれ、今年はそのような年になるかもしれません。皆さんも社会科の分野において、激しく鳴動してほしいと思います。大田区に在任中や、私自身が関わる学校にも夜間学級がありました。本日の発表を楽しみにしています。」と挨拶があり、その後、一刎先生から「公民の取り組みを振り返る〜主体的、協働的取り組みを目指して〜」、児玉先生から「公民的分野 株式会社の仕組み及び金融の仕組み」という主題で発表をしていただき、髙橋副校長先生から夜間中学の現状や荒川九中夜間学級の教育についてお話を伺いました。

1.児玉直哉先生の実践発表

 荒川第九中(所在地:東尾久)に赴任し、第3学年担任をしています。学級数は各学年2クラス)金融教育では、企業会計を考察する活動や、フィンテックなどの様々な金融サービスが利用されていることに触れるなど、高等学校の「公共」も見据えた学習が必要と考えました。また、みずほ証券と早稲田大学の協働で作られたSTEAMライブラリ内のコンテンツなどを活用した授業を計画しました。

 単元の初めの2時間は生産活動と企業、株式会社の仕組みに関する基礎的・基本的な知識を学習した後、みずほ証券の方による出張授業を行いました。出張授業の内容は、お金を得ること、蓄えること、使うことの観点から、特にお金を蓄えることを中心にお金との付き合い方を考えたり、望ましい投資の知識を身に付けたりすることでした。生徒からは、「大人になると自分の想像以上にお金がかかることが分かった」などの感想がありました。

 続いて、人々が投資したいと思える企業を作る活動を3時間で行いました。具体的には、利益、将来性、CSRの視点を考えることや、企業、消費者、出資者それぞれの立場を踏まえ、様々な視点から企業を考えることを留意させました。そして、班ごとに事業計画書を作成し、発表を行い、その企業を投資先として、生徒に投資をさせました。投資は、生徒一人当たり300万円を企業に投資することができる設定にして、振り返りにおいて「なぜその企業に投資したのか」を書かせました。

 授業の成果としては、多様な学力の生徒が主体的に授業に参加できていた点が挙げられます。一方課題としては、調べる活動の時間の確保や、時間の限界に伴う投資のリアリティが高められなかったことが挙げられます。

<質疑等>

・投資先として、どのような企業が選ばれたか。

→A3版に事業計画書を拡大し、掲示して投資先を選ばせた。最も多かったのはレンタルスペースを貸し出す企業だった。コロナ禍の影響や地域的な特性も影響して、生徒の共感を得たのかもしれない。

・出前授業を最後に持ってきて、「皆さんはどのようにお金を使うか」という単元を貫く問いを設定すると、さらに良かったのではないか。「幸福」という見方・考え方も意識できるのではないか。

・昨年企業づくりの授業を実践したとき、ESG投資の概念を教えたところ、今の社会を、経済活動を通してよりよくしていくという視点をもった企業を作っている子どもたちがいた。そのような視点や思いも参考にしていただけるとよい。

・都立農業高校の塙枝里子教諭の実践が参考になるだろう。


2.一刎めぐみ先生の実践発表

 社会福祉施設での勤務、特別支援学級担当を経て通常学級に異動し、社会科を担当しています。身近な出来事を自分事として考え、よりよい社会をつくろうとする生徒の育成をしたいという思いを持っています。また、「公民研究会」で勉強しており、今回の発表はその実践を踏まえたものです。公民研究会は、「よりよい社会の形成に参画する生徒」の育成を目指し、30年にわたり授業の研究をしている団体です。

 よりよい社会を自分事として考えさせる手立ての一つとして「あなたは?」「社会は?」など、主語を明確にして単元末のレポートを作成させることが挙げられます。また、公民的分野全体を通して平和やよりよい社会の在り方を問うことをテーマとして生徒に示し、そのうえで各単元の学びでは、各単元の見方・考え方を活用して、経済や政治の視点から全体テーマに対しての答えを考えるような入れ子構造を取り、より深く「よりよい社会」を問うことを目指してきました。

 今回実践発表するのは、「現代社会・文化の特色」の単元についてです。地歴と公民の円滑な接続を図るためには、一定時間の確保(本実践では8時間計画)が必要と考えます。また、このことで、より深く公民的分野の学びの獲得が図られると考えます。そして、学習過程や学習方法の工夫が必要と考えました。課題把握→課題追究→課題解決の過程のそれぞれで適切な学習方法を設定しました。例えば、課題把握の段階ではインタビューやKJ法、マンダラートを用い、課題追究の段階ではパネルディスカッションやポスターセッションを用いました。

 単元の始めに、地理や歴史で学習した現代社会の課題とあわせて、身近な大人にインタビューさせて、現代社会の課題を洗い出します。それを基に「現代社会は○○な社会である。なぜならば・・・」という形で考えて持ち寄った意見をKJ法で整理することで、現代社会の課題を多面的に理解させるとともに、課題は自分たちにとって身近なことであると実感させました。また、話し合ってまとめたことを、理由を含めて発表し、共有しました。

 これらの情報を基に、班ごとに現代社会の特色や文化についてテーマを設定し、追究する学習を行いました。選択した特色や文化が関連する影響(メリットやデメリット)について、マンダラートを用いて様々な分野に広げて発想させました。81マスのマンダラートではすべてを出すことは難しかった面もあるため、生徒の状況に応じて変形マンダラートを利用することも考えられるかもしれません。

 マンダラートを基に班内で分担・調査したことについて、プレゼンテーションソフトを用いてまとめたものをポスターに集約し、ポスターセッションの形式で発表および質疑応答を行いました。

 単元のまとめの学習では、「私たちが生きる現代社会をよりよい社会にするために、「私は」「社会は」「国際社会は」何をするか?」という問いに対する考えを書かせました。記述からは、当事者性や切実性をもって課題に取り組んでいた様子が多くの生徒から読み取れました。また、「国際社会に生きる平和で民主的かつ持続可能な国家及び社会像」についても、現段階での考えを記述させました。この問いは、その後政治や経済の分野でも継続して問い続けるものです。

<質疑等>

・まとめのレポートの問いは、「私は」「社会は」「国際社会は」の3つの視点からすべてについて書かせたのか。また、公民的分野を貫く問いは、全ての単元で同じ問いで考えさせたのか。

・文化の扱いはどのように行ったのか。時間、内容ともにかなりボリューム感があるが、他の単元への影響はなかったか。


3.「夜間学級」について(髙橋勝彦副校長先生)

 夜間学級は「義務教育機会確保法」に基づき、全国で17都道府県、44校があります。設置や運営の課題として、学校設置場所をどうするか、給食をどうするか、など様々な課題があります。東京都の学校には各地から視察がきている状況です。東京都の学校は8校が設置されていますが、東部に集まっており多摩地域には少ないため、登校が難しい生徒もいるようです。都内8校が協力して移動教室や連合体育大会を実施するなどの協力関係もあります。

 荒川九中の夜間学級は、昭和32年に開校し、映画『学校』の舞台になった学校でもあります。義務教育年齢のときに様々な理由で登校できず、学齢を超えているが学び直したい希望を持つ生徒や、外国籍の生徒が学ぶ場として運営されています。外国籍生徒は、通常の時間よりも早く登校し、言語面をサポートしてから授業に臨むケースもあります。クラス分けの際に、日本語の習熟度も考慮し、時間割もクラスの日本語習得状況によって変えています。近年では、南アジアなどから来る労働者の家族として日本にやってきた子どもたちも多くなっており、高等学校への進学を希望する生徒もいます。

 教員は、自分の担当する教科のほか、日本語指導にもあたっています。通常学級と同じく、年齢的に中堅の教員が少なく、夜間学級の指導ノウハウを受け継いでいく観点からも、バランスの良い人事が求められるところです。授業ではNHKなどの動画等の資料を活用し、生徒の理解をうながす工夫をしています。また、養護教諭やスクールカウンセラーの配置や人材確保が現在悩んでいるところです。学校に一人の配置だと、夜間まで手が回らない現状があります。夜間学級に登校する生徒の様々な背景を踏まえると、生徒の心のケアや生活サポートも重要な課題であると考えています。

 興味関心がある方や見学を希望する先生がいましたら、ぜひご連絡をお待ちしています。


<次回の社会科学習会>

2月17日(土) 15時~ 会場:新宿区立牛込第一中学校

会員の実践発表:東京学芸大学附属世田谷中学校 金城 和秀先生

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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