第179回学習会の報告と次回以降のご案内

 第179回社会科学習会は、令和5年3月11日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催され、会場での参加と共にオンラインでも参加していただき、実施されました。今回は、会員の実践発表と講演を行いました。

 会員の実践発表は、お茶の水女子大学附属中学校の渡邊智紀先生が「『ふるさと納税』の教材化」という内容で社会科公民的分野での授業の取り組みの様子を報告しました。ふるさと納税制度を学ぶことを通して日本社会の様々な問題に目を向け、特に都市部と地方のバランスのある発展とはどのようなものか考えさせ、地方公共団体における財政の現状の課題やそれを克服するための取り組みや制度を理解させるための指導について取り組まれた実践を発表されました。

 講演は、本会会長の峯岸誠先生が『「主体的対話的で深い学び」を考える』という主題でおこなわれました。社会科とはどのような教科か、主体的対話的学びはなぜ求められているのか、社会科教育の在り方を考えさせる内容の講演でした。以下に実践発表と講演の要旨を紹介いたします。

1.渡邊智紀先生の実践発表 「ふるさと納税」の教材化

 地域や地方の現状を読み取り、課題を知り、それを解決するための取り組みや制度の理解を深めるために社会科の授業で何ができるか日頃から考えています。今回は、地方自治の学習との関連で、地方公共団体の財政の問題を考察するための授業を工夫しました。財政の課題について学習した後の学習として、厳しい地方の財政の現状があり、どうすれば課題を解決できるかという視点での発展学習として位置づけました。単元名「地方も私も豊かになる『ふるさと納税』を考えよう」としていますが、ふるさと納税の制度を教えたいという授業ではありません。地理的分野との関連で都市部と地方のバランスの取れた発展を考えさせ、金銭教育との関係でお金の使い道を考えさせ、本校の研究テーマである「生徒の創造的活動」を実践するということをねらいとしています。

 授業は、6時間扱いで行いました。

 第1時に「ふるさと納税」制度の導入の背景とその制度について学び、「地方も自分も豊かになる『ふるさと納税』のあり方を考えてみよう」という単元を通した課題を把握させました。

 第2・3時は、住民税として支払っている10万円分で「ふるさと納税」を行うことは、自分にとって他方自治体にとってどのような豊かさをもたらすか、また、課題は何か考えさせながら、グループで寄付の方針をまとめさせました。ふるさと納税の金額を10万円に設定したのは、40~50歳世帯の平均年収から、ふるさと納税の控除上限を考え導き出したものです。自分の自治体の税が減るという問題も考えさせました。地方自治体も私も豊かになるためには、どのようなバランスをとるか、自治体の課題解決につながるためにはどのような自治体に寄付する(しない)ことが望ましいかなど、考えさせるようにしました。

 第4時は、グループでまとめた寄付内容について中間発表をさせ、多面的に考え、説得力ある寄付内容についてまとめているか見直しをさせました。

 第5時は、総合の時間を利用して学年全体にポートフォリオを班ごとに発表させました。例えば、海の幸や山の幸が好きな生徒の班は、気仙沼市のキャラクター「海の子ホヤぼーや」に貢ごうということでまとめ、自然保護のために気仙沼を支援し、海産物をもらうということを発表しました。家族の出身地の行事や特産物との関係でふるさと納税を考え、地域の課題解決のために貢献することを発表する班もあれば、ふるさと納税の金額を5万円に抑え、近い地域の自治体への納税と返礼品などの運送費の節約などから考えをまとめた班もありました。また、「自分の住む地域が大切である」という視点で、ふるさと納税をあまりしないという選択をして発表した班もありました。

 発表に際して生徒は、東京都金融広報委員会の岡崎様から紹介していただいた講師の方から、お金の使い方や、納税額が決まるしくみなどを併せて学びました。

 第6時は、発表を振り返るまとめの時間とし、班で考察した内容、発表時の自分自身の様子、「ふるさと納税」について学び、今後考え続けたいことや関心を持ったこと、もっと知りたいことを振り返り、アンケートフォームから回答させました。回答には、次のような記載がありました。

「税を増やす取り組みであるのに寄付金の半分が取扱業者の収入や送料になっている問題、豊かな地域と貧しい地域の税の奪い合いなどの問題などふるさと納税の課題を考えられました。」「ふるさと納税を考える中で防災に対する知識を得たり、累進課税などの税の仕組みの知識を深めたり、納税者としての自分について考えたりできました。」


2.峯岸 誠 先生の講演 「主体的対話的で深い学び」を考える

(1) 社会科の基本構造

 社会科は、人間の行動を含めた社会的事象や現在の社会を学習対象として、現実の世界を学ぶためにあります。社会的事象の地表面にあらわれた現象を地理的分野で、社会的事象の形成過程を歴史的分野で、社会に生きる人間を初め、社会的事象を成り立たせている組織、機構とその機能を公民的分野で扱い、それらの総合的な成果として社会科の目標を達成することが社会科の基本構造となっています。このことは、平成元年の中学校学習指導要領解説に示されていましたが、現行版では、小学校学習指導要領解説で説明されているので中学校学習指導要領では触れられていません。社会的事象を中学生に幅広い視野からとらえさせるために三分野に学習すべき内容を分類して学ばせている社会科の基本構造をしっかり押さえて社会科の指導を展開して行く必要があります。

(2) 社会的な見方・考え方

 学習対象としている社会的事象には様々な側面がありますので、様々な角度からその意味や意義、特色や相互の関連を考察することが社会科学習に求められています。社会科の学習では、「多面的・多角的に考察」するということが常套句となっています。社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連を考察し、社会に見られる課題を把握し、その解決のために構想するための方法や考え方が、「地理的分野の見方・考え方」「歴史的分野の見方・考え方」「公民的な分野の見方・考え方」です。それらの見方・考え方は、人間の営みと関連付けて考えなければなりません。例えば、地理的分野の見方・考え方を人間との営みと関連付けなければ地学となってしまいます。現在起きている日本学術会議の問題やロシアのウクライナ侵略を考えるとき、歴史的分野の見方・考え方である時期や推移に着目して類似性や因果関係を明確にして考えることが大切です。公民的分野では、見方・考え方を働かせてより良い社会を構想し、構築できるよう学びを深めていくことが求められています。

 社会的な見方・考え方を働かせる視点として、人間の営みや存在とのかかわりに着目する必要があります。大杉昭英先生は、平成12年に高等学校学習指導要領解説公民編で「人間は本来社会的な存在」であると述べていますが、そのことは平成20年や現行の中学校学習指導要領にも示されています。人間の欲求は多様で無限ですが、資源やそれから生み出されたものは有限ですので、人間の営みを捉えるためには、多角的な視点で見る必要があります。人がどういう立場でどう見ようとしているのか、課題を捉える視点、ポイントが大切となります。また、社会的存在としての人は、人間としての営みの中で様々な「対立」を抱えていますが、「合意」に至る努力もしていますので、「合意」の論理を理解しなければなりません。

(3) 主体的・対話的な学び

 20代の投票率が低い現状があり、市民としての意識を育てることが社会科に求められています。主権者であることが中学生として現実性があるものなのか検討する必要があります。選挙で無所属を選んだ人は、比例代表ではどの政党を選ぶのでしょうか。選挙制度や投票動向などは学べますが、生徒自身に時代に合った選挙制度を考えさせ、選挙権をどのように行使するか考えさせることで、主権者としての主体性=自分ごととして考えさせるようにします。社会科の学習を通して社会の中での自分の位置や役割を考えられるように、自分の生活に繋がる位置づけ、思考の位置づけができるような学習を展開し、主体性を育んできます。

 平成20年の全国中学校社会科研究会名古屋大会の研究授業で承久の乱での政子の檄と後鳥羽院宣旨を受けた西国の御家人がどのように考え行動するかロールプレイングを取り入れた対話的な学習を行い、自分たちの考えや家がどうなるか話し合い盛り上がっていました。対話的な学びを進めていく場合、歴史的な見方や考え方の多様な視点を押さえ、多面的・多角的に考察するよう指導し、生徒が獲得する知識の概念化を促し、理解を一層深めるようにしていきます。地理的分野については、地理的な見方や・考え方を働かせて課題を解決していく学習をどのように深めていくか、解説に学習展開例なども示され詳しく述べられていますので確認してください。公民的分野の学習では、適切な課題を設定して現代社会の見方・考え方を働かせて考察、構想させるようにしますが、大きく捉えて現実から離れていってしまわないように注意する必要があります。


2022年度も、多くの方にご参加いただき、ありがとうございました。

新年度は、4月15日(土) 14時~ 第181回社会科学習会

内容:巡検「東京の尾根と谷(8) 武蔵野台地の水利と井荻町土地区画整理事業 ― 杉並の偉人 内田秀五郎の業績 ―」

14時に西武新宿線 井荻駅集合です。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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