第173 回社会科学習会は、令和4年9月 10 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開かれました。今回は、講師に都中社研で活躍されていた池下誠先生をお迎えし「指導と評価の一体化を図る学習指導-ワークシートを活用することを通して-」というテーマでお話しいただきました。以下、講演の要旨を紹介します。
1.はじめに
・メルカトル図法と正積図法を比べると?
→意外と日本は大きい。いつもの見方・考え方を変える必要性がある。
・最近関心あるテーマは地政学(後述)
2.海外(アメリカ)での授業経験から
・文化の違いを体験した
例)給食、自動販売機で気軽に飲み物を買えること、床に座って授業を受ける姿 など。
・授業をする機会を得て「自分の名前を漢字で書いてみよう」を実践した。アメリカ人は漢字は Cool なものというイメージを持っている。
→漢字の持つ「音」と「意味」を活用して、ネームカードを作って渡した。
→初めての生徒も名前で呼べた。人間関係をどう作るかというときに、名前を覚えることは大切なこと。
3.新しい学年の授業の初めに
・生徒にアンケートを取る。内容は、社会科が好きか嫌いか、地理が好きか嫌いか、歴史が好きか嫌いか など
・アンケートを取る理由・・・学習する意味が見出せない、役に立たない多くの知識を学ぶ、細かいことが多くわかりにくい、などの生徒の社会科に対する意識を把握することがねらい。
⇒ 生徒の状態を前提にして次のような話をする。
・「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」(ビスマルクの言葉)
(例)東日本大震災の大津波…堤防破壊 チリ地震では大丈夫でも、東日本ではだめだった堤防⇒それ以前の貞観地震を振り返っていたら・・・?
・「温故知新」
・「井の中の蛙大海を知らず」ではいけない
(例)かつて、初めてマクドナルドを食べたときの感動、知らなかった世界を知ることの意義→関連して、ハンブルグステーキ(独)とサンドイッチ(英)が融合してハンバーガーは生まれた(地理的・歴史的な背景の話)
⇒これらの話をして、視野を広げることは大切であることを伝える。
4.地理をなぜ、どう学習するのか
・その場所に行き、その場所で学ぶことの大切さ+地図化すること
→地域的特色をつかむことができる。
※情報のコピペ(テキスト情報などから知識をまとめること)は地理であるのか?本当にわかったと言えるのだろうか?
・地図帳も教科用図書→分布や景観写真から考察することが大切。地図からは見えないことは現地から。
例)練馬区 駅から半径 800mの範囲に農地はほぼない。不便なところに農地が多い。
農地が多い練馬区の北西地域→無人販売所が多い
⇒分布図にする。分布図から背景を考察する。
・歴史でも空間的な認識は必要
例)古墳の分布、鉄剣の分布から、時代の様子を考える。
・学者が発見したことを追体験させる→子供は知的な喜びを感じるのでは?
・見方を変えると・・・。
例)朝廷の蝦夷征服を蝦夷の側から見たら?
西部開拓をネイティブアメリカンの側から見たら?
⇒オーストラリアのアボリジニ、北海道のアイヌでも似たような見方を活用できる。
(概念の活用)
5.学習指導要領の移り変わりと特色
・ESDがほんの一部入った平成 20 年版→全面的に位置付けられた 29 年版
・社会の劇的な変化⇒内容(コンテンツ)重視から資質・能力(コンピテンシー)ベースへの転換
・Well-being を目指すための資質・能力がESD
→教師主導からアクティブラーニング(生徒の主体的・協働的な学び)へ
活動のみになっていたり、できる生徒の発言を書き写すだけになっていることへの批判
⇒「主体的・対話的で深い学び」を目指す
※なぜ?を大切に深い学びを成立させるためには,教科の見方・考え方を活かして思考させていくことが大切 →概念を形成させることを目指す。
例)コンビナートの分布→なぜ海沿い?→○○だから→新しく作るとしたらどこに?
→ロシアは海沿いとは限らないのはなぜ→資源と結びつく場所にある
6.「授業のデザイン力」がいま求められている(澤井元視学官)
・単元の構造化
・指導と評価の一体化…プロセスを見ながら(形成的評価)個々の生徒を指導することが重視。
→分からない・困っている生徒を助ける、できている子をほめるなど。
・学びに向かう力(レディネス)がベース(土台)にあり、思考・判断する中でその上に知識や技能が建っていく。そして、より良い人生・社会を創造する力(人間性)が高まるのではないか。
・地理的分野の最後のイメージから逆算して授業を設計する(逆向き設計)
→地理的分野の最後のイメージ(ねらい)の例…将来の主権者として、持続可能なより良い社会を作るための力をつけるためには?
・振り返りの例
内容の振り返りはキーワードを3つ書かせる程度にすることも一つの工夫か?
できたことを書かせる(できたこと手帳)
単元の構造を図で示し(生徒と共有し)、地域をどのように捉えたかを書く
※生徒と教師、生徒と生徒などお互いのために・・・。
7.ワークシートの工夫
・教科書の書き写しではなく,地図から考察させる(見方・考え方を活用させる)工夫
・産業の特色を地形や気候と重ね合わせて見させる工夫
(例)コーヒーベルトの分布
・世界と自分との関わりを意識させる工夫
(例)ブラジルからくる鶏、大豆油→コンビニのチキンに
※「他人事」ではなく「自分事」で考え、気づき振り返り、意識を変えていくのがESD
・「より良い姿」をみんなで考え、個人でも考えることで思考が深まる。
※対話的学びの「対話」は、自分との対話、過去の人の考え方との対話もあるのでは?
・主体的な学びを促すため、自分自身でワークシートを解く時間を 18 分取る
→できた子はできていない子に教える(助ける)。「だれ一人取り残さない」とみんなが良くなる。ただし、答えを教えるのではない。
8.評価の工夫
・パフォーマンス評価
概念的知識を問う問題 問い:Why(なぜか?)
価値的知識・総合的知識を問う問題 問い:Which(どうあるべきか?)
→根拠を明確に答えているかどうかを重視する
・テストやレポートでできなかったら、ブラッシュアップしてもう一回提出してもよいことにする。
→その子の力をつけてあげることが授業(教育)の目的。むしろそちらが大切。
9.異なる視点で世界を眺めることの必要性~地政学について
・地球儀を俯瞰する外交、開かれたインド太平洋、対ロシア外交(安倍元首相)
→戦略的に物事をみているのではないか。一面的に物事を見ることの危険性を指摘している。
・様々な地図で見え方を変えると、世界はどう見えてくるか?
例)ヨーロッパ中心の地図⇔日本中心の地図…欧米からは「極東」にある日本
環日本海地図…大陸から見ると,裏日本ではなく表日本である
沖縄中心の地図…東南アジアや東アジアの拠点
・「自民族を保護する」の言い訳で侵攻は常套手段、ウクライナ侵攻は日本も他人ごとではない。
・もしアメリカの原爆開発が遅れ、日本の降伏が遅れていたら、ソ連が北海道を奪っていた可能性もある。
→このような視点から歴史の授業を行うことも考えられるのではないか。
<地政学とは>
・ハウスホーファー…国力に応じた資源を得るための領土獲得は「生存権」であると主張。
→ナチスの侵略の理論として用いられ、ヒトラーの侵攻により批判を受けた。
・ランドパワー(大陸国家)とシーパワー(海洋国家)
大陸国家には他国に侵攻されないために領土膨張意識が働く。
海洋国家は他国から侵略を受けにくい。
→両者の衝突が歴史的に繰り返されている。
・バッファゾーン(中立(緩衝)地域)
(例)ロシアとNATOにおけるウクライナ
日清戦争における朝鮮半島,日露戦争における満州
帝政ロシアの南下政策におけるバルカン半島やクリミア半島
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