第 172 回社会科学習会は、令和4年 7 月 30 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開かれました。前日の29 日には、東京都の新型コロナ陽性者は 3 万 6814 人を数え、また最高気温 34 度という暑さの中、オンラインも併用しつつ学習会が開かれました。
今回は講師に町田市立忠生中学校の渡邉雅人先生をお迎えし「特別支援教育での社会科の授業」というテーマで、お話しいただきました。渡邉先生は、一昨年、新規採用で特別支援学級の担任として教員生活のスタートを切りました。コロナ禍で卒業式や入学式が中止や簡素化された時です。特別支援教育及び忠生中学校の支援級の実態、それをふまえての忠生中学校での社会科の実践をお話しいただきました。様々な特性を持つ生徒に対して、教える工夫をしている姿を学ぶことができました。
1.特別支援教育及び忠生中学校の支援級の実態
文部科学省によると平成 21 年から令和元年まで、義務教育段階の全児童生徒数が 1047 万人から 973 万人へ減少しているのに対し、特別支援教育を受ける児童生徒数は、25,1 万人から 48,6 万人の 1,9 倍に増加した(特別支援教育を受ける児童生徒数の概況)。支援が必要な生徒は、10 年前に1クラスあたり2、3人だが、現在は 1 クラスに4~6人はいると考えられる。内訳を見ると、「自閉症・情緒障害」と「知的障害」の児童生徒が増加している(特別支援学級の児童生徒数・学級数の推移)。
町田市立忠生中学校の特別支援学級には、中学校1~3年の生徒 51 名(男子 28 名、女子 23 名)が在籍している(町田市立忠生中学校 HP より)。知的固定級ではあるが、情緒障害の生徒も多数在籍しており、学力差が激しい。重度の知的障害(IQ21~35)の生徒と境界知能(IQ 70~80)の生徒が同じ教室にいて、一緒に授業を受けている。さらに施設と教員の配置の関係で、中学1~3年が同じ授業を受ける「縦割り」で授業を実施している。課題としては、3年間を見通した指導計画が立てづらい状況にあることである。
中学三年生では進路の選択を行うことになる。知的固定級では、特別支援学校の就業技術科、職能開発科、普通科のいずれかに進学する生徒が多い。しかし、最近では学力が境界知能にあたる生徒は、通信制や都立高校に進学するケースもみられる。
2.特別支援教育での社会科
上記のとおり、特別支援学級に所属する生徒の複雑化と多様化、なにより在籍生徒数の増加により、「個」にあわせた支援が難しい状況がある。しかし、「何を教えるか、何を身に付けてほしいか」を慎重に吟味し、授業を行っている。通常級と異なり支援級の時間割には「生活」、「太鼓」、「ソーラン」などの自立活動の時間が入り、社会科の時間は年間35コマである。また小学校での社会科の既習事項は無いという前提に立ち授業計画をつくっている。さらに漢字が読めない生徒も多いため教科書を使えない。また黒板への板書をノートに取ることも難しいだろう(板書された内容の何を書けばいいのかがわからない、漢字を書けないなどの理由)。そのため授業内容や展開には十分な注意を払う必要がある。
授業を作るうえでのポイントは、
①授業内容の決定、②モジュール授業、③ICT を活用した授業である。
「①授業内容の決定」では、小学校の学習の定着を心がけている。また高校や社会に出てから役立つ学習内容を考え、どういう知識・技能をつけさせるか考えている。例えば、都道府県や世界の国々の場所や名前を覚える。また「東西南北」の概念を教え、地形図を見て方向を理解させる。地図記号を覚えるため、教師がカードを作成し、神経衰弱を行うなどの授業を行っている。
「②モジュール授業」とは、作業を区切る授業形式である。50 分間机に座っているのが難しく、「書く」、「見る」、「聞く」だけの授業に耐えられない生徒が多いため、このような工夫を行う。
上の図はワークシートの例である。考える、見る、書くという作業を明確に区別して授業を行う。
「③ICT を活用した授業」については、ICT に関心のある生徒も多く、楽しそうに機器を使っている姿が見られる。ただし ICT 機器の操作能力に差が出やすい。例えばローマ字を覚えていない生徒は、文字入力が難しい。またアルファベットの大文字は覚えていても、小文字が覚えられない生徒がおり、キーボードに大文字アルファベットのシールを教員が貼った(町田市で使用している Chromebook のキーボードは小文字表記のため)。能力に差があるため、例えば「都道府県について調べよう」という課題では、すぐに課題を終える生徒と、3~4 時間かけても終わらない生徒がいた。
ICT を活用した授業実践として、外国の情報をインターネットで調べて「3ヒントクイズ」を作成させた。特定の国の国旗を提示し、その国の食べ物や建物を三つヒントとして挙げ、国を当てるという授業である。また、パワーポイントを使って、調べた国の情報をまとめさせる授業も行っている。その際には、あらかじめ教師が調べる項目を設定し(例えば、その国が所属する州や有名な場所)、生徒はそれを調べ、書きこんでいくようにしている。インターネットの情報は膨大なので、焦点を絞らなくては何を調べて良いか分からなくなるためである。外国に興味のある生徒は、多くの情報を調べ 10 枚以上のスライドにまとめている。
報告後の質疑の中で、「特別支援級で教えていて得たことは?」という質問が出た。渡邉先生は、「一人一人の生徒の特質を見る能力がついた」という点を強調していた。
入学の際に小学校からいろいろな情報を得るが、実際に会ってみなければわからないことが多い。そして、「この生徒はどういうこだわりがあるのか」をよく見極める必要がある。例えば、「座席を変えたくない」、「誰かに自分の座席に座られたくない」というこだわりは、教員からすると、むしろないほうが良いものと思えるものだが、「何がその子のこだわりか」を考え、尊重しながら対応することができるようになった。また、社会の授業をする前に授業内容や展開を考え、「この子はここで詰まるかもしれない」と予想するようにしている。とのことであった。
以上のように、特別支援学級での生徒への対応や授業づくりは、一般学級においても応用可能な面が多く、学びの多い講演会となりました。
(記録:K先生)
0コメント