第168回社会科学習会は、令和4年3月12日(土)にZoomを使ってオンラインで行いました。まん延防止等重点措置が出され、学校を開場として開催するのが難しい状況が続いており、また、県をまたいでの移動も慎重にしなければならないこともあり、オンライン開催となりました。今回は、会員の実践発表として三部達也先生と山中千鶴先生にお話をいただきました。
1 三部達也先生(福島県矢祭町立矢祭中学校)
福島県いわき市から上京し、大学3年生の時に東日本大震災を経験する。いわき市での教育実習が、校舎が壊れたためできなくなり、神奈川県で実施した。東京都で1年間非常勤、7年間教諭を経て、福島県の教諭となり、矢祭町立矢祭中学校に勤務している。矢祭中での震災学習についての実践を発表された。
(1) 福島県の現状
震災から11年。復興五輪を掲げたオリンピック聖火リレーのスタートが福島県のJビレッジとなり、聖火の燃料は、浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドで作られた。校庭にはモニタリングポストが置かれている。現在も福島県外に2万人以上が非難されている。県内の震災関連死が2331名と圧倒的に多い。
(2) 震災学習の実践
震災学習に地域差がある。避難訓練は、沿岸部ではほぼ毎月実施し、高台への避難などを必死にやるが、内陸では意識の差があり、あまりしない学校もある。学習指導要領解説総合的な学習の時間のスパイラルな学習過程を参考とし、「課題の設定」「情報収集、整理・分析」「まとめ」を行った。
事前学習として「目黒メソッド(目黒巻)」(東京大学目黒公朗氏考案、地震発生時からどのような行動をとるのかの記録用紙)を利用した。
課題の設定では、震災や防災について6テーマを設定し、情報収集、整理・分析は、全国から図書を募った「もったいない図書館」や原子力災害伝承館(広野町)など活用して調査し、フィールドワークを行い、まとめとして文化祭でポスター発表を行った。
フィールドワークでは、高速道路から第一原発や放射線量の看板を見ることができ、放射線量が高いことがモニタリングポストから分かった。原子力災害伝承館では、原子力発電所設置の歴史、被災した当時の様子を学んだ。帰還困難地域を見るため一般道を通り、帰還困難地域の看板や汚染物の運搬トラックが多いことを確認した。楢葉遠隔技術開発センターでは、廃炉に向けた取り組みを学び、廃炉用ロボット体験、VR体験を行った。
事後学習は、発表用の模造紙をまとめた。
生徒は教師が思った以上に、震災を知らない。施設で初めて知ったということも多い。生徒の感想には、学習に対して意義があったという回答が多かった。
(3) まとめ
教師が原子力災害をどこまで話すべきか、原発利用についてどのように扱うかを悩んだ。地元の中学校はそこまで原発の影響がなかった地域であるが、どこに住んでいても、将来を担う生徒に付けたい資質・能力は同じではないか。
福島県が抱える課題。燃料デブリ(600t)は、ロボットアームで取り出しても長い時間がかかる。帰宅困難地域への帰還はどうなるか。人口減少、過疎の問題もある。
(4)質疑
他教科との協力・連携、新エネルギーの取り扱い、福島と福井の課題と県民としてのアイデンティティを付ける取り組みについてなど様々な意見交換が行われた。
2 山中千鶴先生(千葉県松戸市立六実小学校)
千葉県松戸市出身。大学で峯岸先生に指導を受ける。講師1年、教諭4年。現在勤務している小学校は、学年2クラスの小規模校で若い教員も多い。小学校の社会科教育について発表していただいた。
(1) 小学校の社会科
児童が単元の「まとめ」を楽しく書けるよう意識して実践している。人に見せる作品づくり。丁寧に字を書くこと。必ず手本を見せる。人に見せるものを作るために、字やグラフなどの作成を意識して行えるようになる。社会科はどのような科目かアンケートを採ると「答えが決まっている科目」が75%近く、「資料を見ることが好き」が、約60%であった。資料を調べてまとめる活動につなげるような指導が大切と考える。
(2) 学級での取り組み
学級活動では、帰りの会でプレゼンテーションを行い、自分のことなどについて話し、話すことに慣れるようにして授業で発表することにつながるようにする。係活動では、クラスの当番とは別に、「学校に来る楽しみ」を作るため、様々な係を作り一人一つの係を担当する。
(3) 授業の工夫
まとめを意識した内容で新聞やパンフレットを作る。イラスト(昔の道具を書く)、Q&A、豆知識などをたくさん入れる。繰り返すことで、何を書けば見てもらえるか分かってくる。
地図帳バトルでは、最近ニュースで聞いた国や地域について確認し、知っていることを聞き、語らせる。
家庭学習(自主学習ノート)は、授業で解決できなかったことやもっと知りたいことを調べて1ページにまとめる。苦手の克服や興味に応じた内容を選んで実施し、みんなで見合う時間もとっている。
(4) 千葉県教育研究会での発表(裁判員制度に関する研究授業)
母が、裁判員になった経験があった。社会科を児童に暗記科目ではないと捉えさせるためにどのように指導するかを考えるきっかけになった実践である。
児童の疑問「裁判員制度に参加する人を増やすためにはどうすればいいのか」という課題を追求し、資料を活用し、まとめ、壁に貼って振り返ったり考えたりするきっかけとなるように工夫した。分かったことと分からないことを付箋(ピンク、青、黄)に色分けして貼り、教員も子供も共有できるようにした。自分の意見を後押しされると嬉しい、いろんな人の意見を聞いて考えが変わったという振り返りがあった。
この実践の前に、市民の願いを基に公園を作る計画案を考える実践をした。大事にしていることが一人一人違うことや多数決で決めるだけでいいのかと少数意見も大事にしなければならないことに気付けた。
(5) まとめ
小学校の社会科でいろいろ経験を積んで、好きになってもらいたい。社会科を嫌いにならずに、中学校に行って学んで欲しい。
(6) 質疑
地図帳の索引の使い方、地図活用の工夫、ICTの活用、壁掲示や板書・ノートなどの写真での記録の目的や意義、多数決の限界に気付いた後の子どもの変化、小学生の裁判体験、裁判員制度に関する問いの立て方など活発な意見交換が行われた。
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