第121回の学習会は,12月24日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開かれました。クリスマスイブにあたり,お子さんや家族のいらっしゃる方には申し訳ない日となりましたが,18名の参加がありました。
今回は,学習会の立ち上げから活動を支援,協力してくださった遠藤潤二さんを講師に迎え,ライフワークであった中学校の歴史的分野における世界史の扱いについてのご講演を伺いました。講演の概要は次の通りです。
1 社会科・地理歴史科・公民科改訂の方向性
平成28年12月21日に中教審の学習指導要領の改善についての答申が出された。今次改訂の目玉は高校教育の改革であり,地理歴史科・公民科は大きく変貌する。
(1)地理歴史科・公民科の科目構成
地理歴史科(歴史) → 必修:歴史総合 選択:日本史探究,世界史探究
地理歴史科(地理) → 必修:地理総合 選択:地理探究
公民科 → 必修:公共 選択:倫理,政治・経済
歴史総合は世界史の中での日本について近現代史を中心とする。内容構成は,①歴史を学ぶ意義や学び方 ②近代化 ③大衆化 ④グローバル化に着目させる。 (※この4項目構成は地理歴史科・公民科の全てに共通。峯岸注)
(2)中学校社会科歴史的分野
我が国の歴史的事象に間接的な影響を与えた世界の歴史の学習についても充実させるとともに,民主政治の来歴や人権思想の広がりなどの動きを取り上げるなどの改善を行う。(下線は峯岸)
2 学習指導要領の変遷と世界史の扱いの変化
昭和52(1977)年改訂から徐々に世界史分野が減少し,平成20(2008)年改訂で時数は増加に転じたことにより内容もかなり復活している。復活が進まないのは観点別評価の導入と課題解決型の授業の促進により教科書の編集が大きく様変わりしたことによる。教科書の編集では,図版資料を増やし,読み取りなどの作業を通して観点別評価と課題解決型の授業に応えようとした。その結果,基礎基本となる歴史的事象をあらわす事項(本文)の量が減少した。現行学習指導要領では130時間まで回復しているが,文章量は削減されているので,文章で説明できていない事象が多いと判断せざるを得ないのが現状である。したがって,授業では歴史的事象の因果関係や背景は,教員が説明していかないと生徒は理解できない状況があると教員は認識したほうが良いと思う。
[具体例]イスラムの発展と十字軍,ルネサンス
教科書(帝国 2015検定)では「(略)この試み(十字軍の遠征)は失敗しましたが,ヨーロッパの国々とイスラム勢力が接触したことにで,イタリア商人とイスラム商人との間で貿易が活発になり,天文学などの①イスラム諸国の進んだ ②学問や技術がヨーロッパに紹介されました。(略)14世紀になると,人間の個性や自由を表現しようとした古代ギリシャ・ローマの文化を理想とするルネサンス(文芸復興)と呼ばれる新しい風潮が生まれました。(略)」とある。
上の文章で①の“イスラム諸国の進んだ”とありますが,諸国とは何を意味しているでしょうか?
~イスラム文化は,主に二つの経路でイタリアに入ってきています。一つはシチリア経由,もう一つはイベリア半島経由です。当時(イベリア半島の)トレドはイスラム学問の中心地(ラテン語への翻訳学校などがあった)で,後ウマイヤ王朝の支配地域でした。諸国とはアッバース朝に追われたウマイヤ朝の人々がイベリア半島に逃れて建国した国を指しています。
②の“学問や技術”とは何を指しているでしょうか?
~教科書では写真図版(イスラム教の研究の様子)を掲げ,資料活用として“写真の中から下にあげたA~Cを探してみましょう。(A:地球儀 B:コンパス C:砂時計)としています。これらのものがどのように使われ,社会がどのように変化したのかは教師の指導によります。
この後,歴史的背景について教員の説明を要する部分として,「市民社会,近代化」イギリス革命⇒アメリカ独立戦争⇒フランス革命の関わり,「新航路の発見」,「モンゴル帝国」と蒙古襲来(元寇),「鉄砲伝来」,「朱印船貿易」が続きました。
3 世界史の学問的な動向
最後に,近年の研究動向として,世界史を「ワールドヒストリー(各国史を束ねたものとしての世界史)」ではなく,「グローバルヒストリー」として地球全体を巨視的にとらえる視点である,ウォーラーステインの「近代世界システム」(国際分業体制)を取り上げられました。国際分業体制とは資本主義の発生,発展の中でヘゲモニー(覇権)国家が生まれ,世界を支配したという考えです。17世紀のオランダ,19世紀のイギリス,20世紀のアメリカが世界史上3つのヘゲモニー(覇権)国家です。現在は,アメリカの影響力が低下し,次のヘゲモニー(覇権)国家はどこかが論議(ポスト近代世界システム)されています。しかし,この論はヨーロッパの視点であり,アジアの視点が欠落しているという批判もあります。(ケネス・ポメランツは,産業革命を境にヨーロッパがアジアより優位になったという「大分岐」論を唱えた。)
日本では「グローバルヒストリー」を提唱する研究者として,水島司(東京大学),秋田茂(大阪大学),「新しい世界史」論を追究している羽田正(東京大学)を紹介されました。
質疑の中で,遠藤さんがどのようにして知識を獲得しているのかを問う質問がありました。遠藤さんの答えは本を読む,興味ある分野の学会の紀要等に敏感になることを挙げられました。
その後,場所を変えて遠藤潤二さんへの感謝の会と併せて忘年会を行いました。
次回は,1月21日(土)14じから巡検:新宿の尾根と谷 ー新宿山の手 七福神めぐり―を行います。 講師は、武部誠先生です。 詳細は次の記事で紹介します。
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