令和2年の初めての社会科学習会は、1月18日(土)に牛込第一中学校で開催されました。折からの冷たい雨模様でしたが、恒例の会員の皆さんの実践発表で大変盛り上がった内容となりました。
今回は、地理的分野の「身近な地域の調査」で、水害に焦点化した授業実践を、府中市立府中第八中学校の小坂千明先生から頂きました。
〔はじめに〕
学校所在地は多摩川に西面しています。地形図(昭和26年)でみると桑畑、針葉樹林、水田などが広がり、人家はほとんど見られない地域でしたが、当日配布された地図「府中市・およびその周辺」で見ると、現在は、ほぼ全域が宅地化されています。学校規模は、全体で20学級、生徒数744名の大規模校で、更に生徒数の増加が見込まれているようです。
小坂先生が赴任して間もなく気付いたことは、道路に面した家屋の入口に数段の階段があることでした。「この階段はなぜあるのだろう?」そこに授業づくりのヒントがありました。
1 授業の位置付け
総合的な学習の時間(八中タイム)の課題は、『地域とともに「生きる力」の育成(生命の尊重を中心として)』で、①地域を知る、②地域に学ぶ、③地域と共に生きる を具体的な項目としています。第1学年では「避難所開設訓練」を行い、中学生は地域から守られるのではなく、地域を守る立場であることを意識させるとのことでした。しかし、避難所開設は地震対応が中心であるため、この地域で起こる可能性の高い「水害」に対しての備えはどうあるべきなのか?という疑問も同時に、小坂先生は持ったのだそうです。そこで、総合的な学習の時間の体験や学びを社会科の授業に敷衍し、水害への対応を中心に据えた身近な地域の授業を構想していきました。
2 授業の組み立て
第1学年では「避難所開設訓練」の経験の後、「(避難所にやってくる人たちが住んでいる)私たちの学校周辺はどのような地域か?」を単元目標にして、身近な地域の学習として、学校周辺の特色を地形を中心に調査させました。実際に地域に出て観察する際のポイントを「家屋の入口の階段」にしました。学区を3つの地域に細分し、2段以下・青、3段・緑、4段以上・赤で表示させ、地図に落とし込みました。この活動から、土地の高さに対応し、水害から家を守る人々の工夫を見出させ、水害が起こりうる街であることをつかませました。また、地図「府中市・およびその周辺」を活用して標高点の読み取りなどの作業を行い、地域の地形の概略をつかませました。
第2学年では、第1学年での学習を基に、総合的な学習の時間との関連を引き続き図りながら、6時間構成で学習を進める計画とのことでした。
初めの2時間は既に「合同社会」として、多摩川の歴史や地域の関わりについて、外部講師から学習しました(発表当日の午前中の土曜授業でした)。生徒は、歴史的な視点や他地域との結びつきの視点から、身近な地域の特色や水害に関する歴史についての理解を深めたようでした。さらにこの授業の際に小坂先生は、事前に令和元年10月12日の台風19号の際の行動(避難の有無)をアンケート調査したものを用いて、「その時我々はどう行動したか」という主題で報告しました。タイムリーな話題を逃さず指導することで、身近な地域が水害が起こりうる地域であるという認識を新たにさせたり、水害発生時の対応の在り方について見直したり改めて考えるきっかけを生徒に与えたりしました。
この後のプランはまだ構想中の部分があるとのことでしたが、おそらく関東地方の学習を進めていった後に、「水害の発生が予想される地域にも関わらず、なぜこの地域は人口が増加しているのか?」を課題として設定していくことが想定されます。人口増加の要因を「魅力」、水害への対応を「課題」に設定して、地域の在り方について多面的・多角的に考察していくような、このあとの4時間の授業実践が待たれます。
次回は、2月22日(土)15時~ 牛込第一中にて
講演 「歴史学と歴史教育 ―システム思考の観点から-」
講師 玉川大学准教授 濵田 英毅先生
ぜひご参加下さい。
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