第210回社会科学習会は、3月14日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場として行われました。今回は、福井県教育委員会から文部科学省に派遣され、初等中等教育局教育課程課教育課程総括係を務めていらっしゃる吉川あき子先生に「私と社会科教育〜福井県の教育と幸福度から考える〜」という演題でご講演をいただきました。吉川先生は、福井県授業名人に選ばれた社会科のエキスパートとして活躍された先生で、現在は、行政方面で様々な貢献をされ、ご活躍されています。以下、その要旨を報告いたします。
1.自身の社会科教育に影響を与えたこと(もの)
「どんな社会科教師でありたいか」と、発表するにあたり、問いを作ってみました。「28、6、291」自身の社会科教育に影響を与えたこと(もの)の3つの数字ですが、何だと思いますか?
「28」は、人生で行ったことがある国の数です。社会科教師として、現地に実際に行き見聞きしたことや感じたことを生徒に伝えたいと思っています。福井県在住時は年2回は海外へ行きました。また、3年間イタリアの日本人学校に勤めていました。
イタリアは駅に教会があり、宗教がイタリア人の食や価値観に根付いていました。例えば、イブレアの「オレンジ投げ祭り」は、キリスト教のカーニバルの日に行われます。地区に分かれオレンジを投げ合い昔の貴族と庶民の戦いを表す祭りで、宗教と歴史、自然が深くかかわっています。 また、ある場所では山肌に木で「DVX」とムッソリーニを表す言葉が書かれていました(歴史)。
この写真から、どのようなことが分かるでしょうか?イタリアはEU加盟国ですから、ナンバープレートの形式は一緒ですが、ナンバーの「I」はイタリア、「FIN」はフィンランドを表していることが分かります。一つの国の中に様々な国の車が走っています。電車は、時間通りに出発することがなく、着くホームもわからないことがしばしばあります(地理)。
イタリア人はミケランジェロやダヴィンチを小さいころから見てきたからこそ、デザインの良さには世界的に定評があります(歴史・宗教・文化)。「さくらさくら」が小さい音で終わるのはなぜでしょうか?わびさびは、桜が散る寂しさや無情感を表したり、災害が多かったりする日本人の国民性ならではともいえます。イタリア人には日本のような「わびさび」はありません。
気候、地形、自然(気候・植生・災害)、歴史、宗教、文化、これらから学ぶものが人間性、国民性に関係していると考えます。
「6」は、東京にいる年数です。ご縁があり社会科学習会での学びや、東京の先生方との出会い、行政経験を重ねてきました。
教師として私は、生徒が授業を「分かる」こと、授業規律、ノートを書かせることを重視してきました。もう一つは、授業が「好き」な生徒を育てることを大切にしてきました。生徒が寝たら負けだと考え、教材研究に日々努力してきました。家でも社会科を勉強する生徒にしたいと思ってきました。
2.福井県の教育を振り返る
「291」は、お分かりのように福井県のことです。福井の教育について、6年いた「外から」の視点も入れながら見てみたいと思います。
福井の教育を振り返るにあたり、統計データを活用します。幸福度ランキングは、福井が1位、東京が2位です。なぜ、福井は幸福度が高いのでしょうか?
福井は教育、東京は文化の評価が突出しています。学力は、東京と福井はほぼ一緒です。教育力の高さに、社会科の学習、3分野の見方・考え方、人間の生き方・在り方が関係するのでは?と、書籍『福井県の教育力の秘密』も参考に考えました。
まず考えられるのは、教師の協働性、同僚性です。教員同士、誕生日があれば全員でお祝いします。学年会でも、管理職へも行います。週案には、必ず管理職の先生からあたたかいコメントが来ます。なぜ、協働性があるのか、理由を考えました。
・冬の共同作業。共同作業をしないと暮らすことが難しくなるので自然と仲が良い。
・福井地震。行政から自治組織の重要性が説かれ、自治組織が強い。
・全教員が全学年を受け持つ。タテ持ち、教科部会で決定、若手優先。結束力が強くなる。
次に、副教材(プリント)数の多さと家庭学習(学年+1時間)の多さが関わっているのではないでしょうか。
・各学年で一ヶ月の計画表を作り、基礎知識の徹底を意識し一問一答。思考力の育成。
・女性就業率、共働きの割合が全国1位。安定した雇用環境(メガネ産業、繊維産業)。
さらに、規律や、鍛える・揃える文化が福井にはあります。
・校門への一礼、黙食、無言清掃→永平寺から始まった宗教的な側面。
最後に、福井県の社会科教育の在り方が関わっていると考えます。
・県社研、1951年創設。7ブロックにわかれ、持ち回りで研究。小中一緒の研究主題で研究。
・全国指導主事会で、全国の事例として地理のT先生の実践が選ばれたことがある。
・研究の4視点の1つに「ふるさと福井」について学ぶ→人口の少なさ(大田区、千代田区の昼間人口より少ない)。
・校種間の異動が盛んで小の大切さを理解。地域の人が学校に入る。
・「SASA」県独自の学力調査→5教科、1951年から開始、子供にどのような力を付けたいかを考え問題作成(福井県の子供が弱い複数の資料の読み取りを出題)、振り返りをさせる。
3.文部科学省勤務と学習指導要領
「6」は、東京にいた年数でしたが、現在は、文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程総括係として勤務しています。教育課程課では、専門的な知識、論理的思考力の非常に高い人たちが教育への強い使命感をもち、終電まで働いています。
教育課程総括係の担当の特色として、社会科と技術・家庭科が一緒になっていることが挙げられます。社会科と家庭科が同じ内容を扱っているものが多いです。社会科には、「○○教育」と呼ばれるものが非常に多く、昨今では特に「主権者教育」が求められています。
〔学習指導要領について〕
全国どこにいても学びが守られる、単なる指導助言文章ではない法的基準性があるものです。様々なところからこの内容をを入れてほしいという要望もあります。パブリック・コメントも多いです。
〔次期学習指導要領の目標〕
現在、中教審のワーキンググループでの審議が続いています。「社会的な見方・考え方」については学びを深める手段であるので、目標とは別のところに書いていくことや、「グローバル化」はすでに当然のこととして考えることなどが提案されています。今次の改訂のキーワードとして「よりよい社会の形成に向けて」「協働的」の2つが注目されます。また、分野を横断する3つの単元の新設についても提案されています。今後の議論の推移に注目していくことが大切です。
4.最後に…初代学習指導要領を紐解いて
1947年の戦後初の指導要領では、いわゆる「総合社会科」が生まれました(国立教育政策研究所の「学習指導要領データベース」を参照)。この中には、地・歴・公をそれぞれ別で考えるわけではなく、3つが一体的に関連しているととらえる考え方、教科書は生徒に記憶をさせたり覚えさせるためのものではないこと、「単元の問題(問い)」は子どもから生まれるものであることが、この時から書かれています。つまり、教師の「教材研究の重要性」、「学習指導要領の重要性」が大切であることが示されています。
最後に「どのような社会科教師になりたいか?」という問いに対して、私は、「灯(ともす)→先人の灯を守り、自らの灯を磨き、未来を灯す」教師となりたいと答えたいと思います。
<質疑応答から抜粋>
・なぜ教員を目指したのか。各地域をみてきた上で社会科教員の共通性など感じたことは。
→小学生の頃から歴史漫画が好き。高校の時、テスト後に先生たちがテニスをしていて、好きな歴史をしながら良いなと思った。社会科の先生たちは社会が好き。全国どこにいる先生たちも社会科が好き。集まるとすごいのでは?と思う。
・今後の展望、若い先生たちへ期待すること。
→もう一度現場へ戻りたい。学校の教員は影響を与える範囲が狭いが、子供に与える影響は、国や自治体よりも大きいと感じている。若い先生たちへは、一緒に教材研究をして面白い授業を作れたら良いと感じている。
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