第 207 回学習会の報告

 第 207 回社会科学習会は、12 月 20 日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場として、町田市立町田第一中学校の藤井健一郎先生に「指導教諭としての私の実践」という主題で実践発表をしていただきました。藤井先生は、令和4年度から指導教諭として、模範授業や公開授業を実施し、研修会の講師や若手の指導に当たっています。指導教諭としての役割や授業実践について発表していただき、協議を深めた様子をお伝えします。

<藤井健一郎先生のお話>

1. 指導教諭としての私の実践

 3つの学年を一人で教える小規模の中学校から教員生活をスタートしました。初任者の時に「チョーク&トークの授業スタイルが古い」と指導主事から指摘されたことをきっかけに奮起し、都の教師道場、教育研究員、教師道場リーダーを経て、現在は町田市授業改善推進委員や都の「デジタルを活用したこれからの学び研究開発委員」を歴任しています。都の教育研究員の時代には、深い学びと問い、および指導と評価の一体化を中心に研究を行いました。

指導教諭の仕事として、年3回の模範授業の実施、研修会講師を務めたり、校内の若手への助言を行ったりしています。

〔単元名 人間の尊重と日本国憲法の基本原則(12 時間扱い)と 単元名 市場の動きと経

済(13 時間扱い)の指導について、資料をもとに説明がありました。〕

 現在の指導では、「教える」より「育てる」を重視しています。いろいろな活動を取り入れ、次の学習につながる評価を心掛け、C評価の生徒がB評価になるような指導を心掛けています。

 例えば、単元の学習を、見通しをもって進めるための「単元見通シート」を事前に配布することや、「ラーニングガイド」を配布し、学習の進め方(順番)や学習する人数(個人・ペア・グループ;1~4人以内なら個人でもグループでも可)を自ら考え、自己調整させる工夫をしています。そして、単元の学習をふまえたパフォーマンス課題も取り入れています。

 「単元見通シート」には、学習内容のまとまりごとの「問い」が書かれています。それに対して、学習を進めながら考察し、問いに答えていく形をとっています。このシートは、毎時間、あるいは数時間のまとまりの後に記入させ、主に主体的に取り組む態度の評価に活用します。思考・判断・表現の評価に活用します。

 パフォーマンス課題については、中野英水先生の著書を参考に設定しています。

<質疑応答>

・指導教諭に求められる授業の水準とはどの程度なのか?また、指導教諭同士の横のつながりはあるか?

→水準などは示されていないが、資料など持ち帰れるものを用意するようには言われている。任用の時に先輩から指導について話を伺ったが、それ以外はない。

・(藤井先生と同じ指導教諭の先生から)問いを予想させ、活動を通して学ばせ、振り返る、というサイクルは私の実践ともほぼ同じである。最近は指導教諭に、評価に関する協議やICTの活用など、社会科の本質ではない部分の方法論的アドバイスを求められることが多いが、「社会科の指導教諭」として意識していることはあるか?

→資料から読み取って考えることができないと、社会科の学習は難しい。そのため、そこに力を入れているつもりだ。

・社会科の指導教諭としての現状への危機感、コロナ禍以降の変化に関する気付きなどはあ

るか。

→生徒に教える内容を、教科書通りに何も考えずに行っている先生も散見され、これでよいのかと思うことがある。ICT の普及が進んだことにより、書く力が落ちているのではないかという意見があったが、その点については、私はワークシートに直接記述させることなどで工夫している。

・授業づくりの中でのこだわりポイントは?

→自分がいなくても学べる生徒を育てることを意識している。単元ごと、テーマごとに活動を工夫している。

・授業づくりや教材研究の進め方は?

→目標を設定した後、内容や活動を逆向きに設計している。教育に関する新しい流れを意識して取り入れるよう心掛けている。

・自由進度学習の中でのグループ選択については?

→生徒が教室内であれば場所や人数(最大4人)を選択できるようにしている。生徒指導上のトラブルになるようなことはない。教師が班や個人の活動を見取り、他の班でも「同じことをしている」ことを伝えるなど、見に行かせたり意見交換させたりするように声掛けを良く行っている。

・(経済単元の)「起業の授業」にリアリティをもたせる工夫は?

→過去にその意味で具体的な金額を計算させたところ、そればかりになってしまい経済の本質をとらえられなかった反省がある。今年度の実践も振り返って改めて結論を出していきたい。

・デジタルの活用について、生成AIなども含めてこれからの展望は?

→Canva(AI による分類などもできる)を活用している。

・「単元を見通した問い」が生徒にとって難しく感じるが、先生自身はどのように「人権」をとらえて考えて設定したのか?

→人権の根本は、平等、自由権を持った平等を実現するために互いを大切にすることと考え、それを実現するためどのような方法があるか考えさせるようにしている。

・チャレンジミッションを「日本国憲法が掲げる基本的人権の尊重の意味を弟や妹に説明しよう」と設定した意図は?

→自分の言葉で説明できないと理解したと言えないので、弟や妹に説明することが良いと考えた。

・若い先生方に期待することは?

→授業を見に来る先生は、熱心な方か、研修のために仕方なく来る方のいずれかに感じる。しかし、どのようなきっかけであっても、社会科について語る場であるといいと考えて協議会を運営している。ぜひ研修に足を運んでほしい。


<参考資料>

  単元見通シートの原型は,平成 30 年度教育研究員の研究成果としてまとめられています。ぜひこちらもご参照ください。

2.おわりに

 藤井先生の実践についてのお話しと質疑応答により、指導教諭の制度、指導教諭の役割、教員の研修、個別最適な学び、社会科としての教科の本質、授業の方法論など多岐にわたって考えることができました。最後に峯岸先生からまとめのお話があり、「授業は少しの理論と多くの実践,そして工夫が大切」であるとご示唆をいただきました。


 本年も多くのご参加を頂き、ありがとうございました。

 2026年も引き続き本会の活動にご理解・ご協力を頂けますようお願い申し上げます。


社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

0コメント

  • 1000 / 1000