第145回 社会科学習会の報告

 第145回社会科学習会は、平成31年2月23日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回は「会員の実践発表」として中野英水先生(板橋区立赤塚第二中学校)より「SDGsへの理解を深める教育」についてご発表いただきました。今回の授業のテーマは「私たちがつくる持続可能な世界~SDGsをナビにして~」です。SDGsへの理解を深めるための教育を今後、どのように行っていくかについて大変参考になる実践発表でした。


1 はじめに

 SDGsとは、「持続可能な社会を実現するための目標」であり、国連から出されている17のキーワードのことである。今回、教材化することになった背景には、激しく変化する社会を生き抜いていかなければならない生徒たちにどのような教育をしていくべきかというESD的な視点を授業に組み込んでいった過程にある。ESDに関しては、新学習指導要領にも記載され、今後の社会科教育の重要なテーマになるものである。

 ESDについては環境面に偏りがちだが、それだけではなく、身近なものから少しの工夫で教材化できるものであるため、今後様々な場面で実践できるものである(当日は、環境省から発信されている「ESDの重要性」という動画を視聴した。その動画では金沢の中学校の「食文化保全」の取り組みや、長野県の「里山を学ぶ」という実践事例が紹介されており、身近なものを教材化する一例が示された)。

 ESDの理念と目標を達成するため、今回はユニセフ協会からSDGsを取り入れた授業の要請もあったことで、教材化するに至った。


2 SDGsの教材化

 現在、SDGsに関する教材が日本ユニセフ協会のポータルサイトよりダウンロードすることができる(URL:www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/kyozai/、または「ユニセフ SDGs 教材」で検索)。このポータルサイトはSDGsを教材化する上でとても有用な情報が多数掲載されている。SDGsに関する詳細な情報や授業で用いれそうな動画やワークシート、学習計画の例なども提示されており、社会科の教員としては教材化するにあたり、大変参考になるものが掲載されている。今回の研究授業でも、このポータルサイトを利用し、動画を生徒に視聴させたり、パンフレットを活用したりすることで授業を組み立てていった。


3 実施した授業と生徒の様子

 今回の研究授業は、第3学年の公民的分野「(4)私たちと国際社会の諸課題」の「イ よりよい社会を目指して」(新学習指導要領「D 私たちと国際社会の諸課題」「(2)よりよい社会を目指して」)において、10月に実施した。全6時間構成で実施したものの、調べ学習の時間も含め、もう少し時間が必要だったように感じる。本時では、SDGsの17の目標の中から優先的に取り組んでいきたいと思う目標を1から3まで理由を示しながら、順位を付けるという内容の授業を行った。それぞれの課題が自分たちとつながっていることや課題同士が密接に関わっていることなどに気付かせるように授業を構成した。

 研究授業当日は、ユニセフ協会のヘンリエッタ・フォア事務局長がちょうど来日していたこともあり、研究授業を見に来られた。授業の最初の時間には、事務局長自らSDGsについて考え行動する重要性を生徒らに語る場面があった(当日の様子については「SDGs教材で授業 ユニセフ事務局長も参加」教育新聞2018年10月11日の記事(下)に掲載されている)。生徒らは事務局長の言葉を熱心に聞いていた。

 全6時間構成で、最終的にはレポートを完成させ、個人間で持続可能な社会の実現に向けての行動宣言を記入させた。それを読み取ると、普段、学習に苦手意識があるような生徒であっても、一生懸命に思考し、主体的に取り組んだ様子が伝わってくる内容となっていた。これは、この単元に入る以前からもESD的な視点を取り入れた授業を実践してきたこともあり、生徒らの問題意識が高まっていたことも要因としてあげられるのではないか。


4 授業を実施して

 SDGsは2030年までの目標を掲げている。2030年とは、もう11年後のことであり、そう遠くない未来のことを指している。2030年には、今の中学生は20代後半であり、社会的には自立して組織の中で中核的な役割を担っている頃である。そのため、現在の中学生段階でSDGsやESDの視点を取り入れた授業を実践し、生徒に考えさせることは非常に意義深いものであると感じる。よりよい地球、よりよい社会を実現するためにも、社会科の教員として今後どのように取り組んでいくかをこれからも考えていきたい。

<質疑応答>

Q1.社会科だけでなく、他の教科と連携して、SDGsを取り入れた実践をしているか。

⇒なかなか、他の教科とはできていない。しかし、理科や総合等では実践可能なため、呼びかけていきたい。

Q2.本時の展開で17の目標の上位3つを選ぶとき、偏ったところはなかったか?

⇒偏ってしまった。生徒の思考場面で、確かに捉えづらいテーマもある(17の目標など)

Q3.「不平等をなくそう」という個所があるが、授業後の生徒の様子はどうか?

⇒社会科だけの実践では見とれない部分がある。

Q4.SDGsは公民的分野ではなく、世界地理とは結びつけやすいが、日本地理とどうリンクさせていけば良いか。

⇒テーマによっては、結び付けていくことは可能。どこを扱っているのか、しっかりと提示する。

(記録:渋谷区立中学校 I先生)


※この授業で使用したSDGsの教材については、当会HPの一つ前の投稿でもまとめてあります。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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