第197回学習会の報告

 第197回社会科学習会は、11月16日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催され、第57回全国中学校社会科教育研究大会北海道大会で研究発表された、中野区立明和中学校の長井利光先生と練馬区立石神井西中学校の今村吾朗先生に発表内容および大会の授業等の報告をしていただきました。

 本年度の全中社研北海道大会は、11月7日(木)と8日(金)の両日、ホテルライフフォート札幌を会場として、全体会、分野別の公開授業、研究協議、研究発表が行われました。

 大会主題は、「未来を創る社会科教育―よりよい社会を実現する資質・能力を育む社会科学習―」として、「常に変わり続ける世界に向き合い、よりよい社会を描き、形成していくために必要な資質・能力を、主体的・協働的に学ぶことを通して身に付け、鍛えていける生徒」を育むための指導の在り方についての研究発表と実践授業が公開されました。

 都中社研は、毎年、全中社研の研究大会で研究発表を行っており、本年度は、歴史専門委員会が発表しました。その要旨を報告いたします。


1. 北海道大会での都中社研歴史専門委員会発表「歴史学習における思考力の育成」(長井先生)

 都中社研歴史専門委員会では、時代の転換をとらえる学習、時代を大観する学習など、「歴史的な思考力・判断力・表現力等を育成する学習の在り方(歴史的思考力)」について研究してきた。特に2021年の全中社研東京大会までは、歴史的分野のC⑵イ(ウ)「構想」の学習を中心に研究を進めてきた。「構想」を本委員会では「これまでの歴史学習を踏まえ、未来のあるべき姿を考える」ことと定義し、学習指導要領解説にある、「よりよい社会の実現のために、どのような未来を目指すべきなのか、選択・判断する」ことは、過去の各時代においてもできるのではないかと考えた。この研究の都中社研の研究の中での位置づけとしては、2021年の全国中学校社会科教育研究大会東京大会での研究テーマの社会科の授業を通して「予測力」「対応力」「共生力」「発信力」を育成することのうち、「予測力」「対応力」の育成を視野にいれたものである。また、3分野の連携を視野に、公民的分野のD⑵「よりよい社会を目指して」の中項目につながる各分野の学習の在り方について、地理的分野、歴史的分野が共通のテーマをもって研究を進めてきたという経緯もある。

 今回の報告では、その後も研究を継続してきた「歴史的思考力」の育成について、単元構成の工夫や身近な地域の歴史の活用によって、歴史的事象を因果関係など時間的な視点から考察する力の育成を目指した実践を紹介する。

2.実践報告(今村先生)

 歴史的分野⑶近世の日本 (ウ)「産業の発達と町人文化」で実践を行った。学校の近くにある千川上水を教材化できないかと着想し、身近な地域の歴史と関連付けた授業を構想した。また、課題解決的な単元、小学校での学びを深める学習になるように配慮した。

 各時代の文化は、その時代の社会背景があって生まれてくることから、文化の学習を先に行い、「なぜ町人を中心とした文化が起こり、広まっていったのか?」という問いを追究する単元を設定した。単元の各時間では、政治的背景、社会的背景を学習したうえで、考察したことをレポートでまとめることとした。また、単元の時間数が長くなることもあり、身近な地域の歴史を授業に入れ込むことで、生徒の学習意欲をそがないよう工夫した。

 文化の学習の課題として、事象の羅列に陥ってしまうことが挙げられる。そこで、ある文化的事象の成立過程に着目させることとした(例:曽根崎心中の社会背景)また、現代につながる歌舞伎や浮世絵などに関する事象を導入に取り入れ、当時の文化が現代にまでつながることに触れながら、庶民に受け入れられた文化という点に着目させていったり、元禄文化の学習を活用して化政文化の学習の見通しをもたせたりする工夫をした。

 生徒が作成したレポートを見ると、複数の事象を関連付けて結論を述べたり、身近な地域の発展も関連付けたりしてレポートを作成している様子が見て取れ、因果関係で捉えたり、多面・多角から歴史的事象の背景を考察したりしている様子が見られた。しかし、一定数の生徒は、情報を関連付けたりすることが難しかった。今後も複数の資料を関連付けて思考したり、情報をまとめる技能を身に付けさせたりするような指導を心掛けていきたい。また、資料から読み取れる情報を根拠に推論したり、説明、議論したりする力も大切にしていきたい。

3.研究のまとめ(長井先生)

 令和6年度から、都中社研では新たに「社会とつながり、よりよい未来を創造する社会科学習~見方・考え方を働かせる授業デザイン~」をテーマに研究を進めることとなった。今後も「歴史学習における思考力」の育成を進めることで、現代社会の諸課題がどのように起こり変化して現代に至ったのか、歴史的根拠をもって理解し、その後の人生に、よりよい未来を切り開いていくことができるのではないかと考えている。


4.北海道大会の公開授業について(長井利光先生)

 歴史的分野の会場では、「明治維新と近代国家の形成」「武家政権の内と外」の2つの授業が実践された。前者の授業では、自分自身とのつながりを実感できるよう、北海道の地域資料等を活用し、学習問題に対する答えを生徒自身が協働学習を通して形成していくものだった。授業後、研究主題の「未来を作る」との関わりについて授業者に尋ねた。北海道に住むという自覚をもたせ、そこに住むものとして何が問われているか、どうすべきかを踏み込んで考えさせると、さらに良い実践になると考えた(アイヌの歴史に関わる内容は、前時で学習しているとのことだった)。後者の授業では、中世における中国との関係の推移をマトリックスで捉え、日本と中国の関係についての概念を形成しようと試みたものだった。現代とのつながりを最後に意識させるような問いかけがあった。

<質疑応答>

◆化政文化の後ではなく、元禄文化のあとにレポートを置いたのはなぜか?

⇒政治改革との関連を意識したときの生徒の書きやすさなどを考慮した。

◆文化の扱いを最初に置くことについて他の研究会で指摘があったそうだが、どういうことか。

 ⇒資料を基に解釈することの大切さを指摘していただいたのではないか。(文化の後に時代背景等を扱うことから、そのような)知識がない状態で当時の文化の特色を正しく理解できないのではないかという指摘だったと理解している。

◆歴史的思考力、構想と本実践の関係は?

⇒構想はこれまでの研究の経緯として説明した。今回の報告は、単元構成の工夫によって歴史的思考力(因果関係)をつけていくことがねらい。考察の学習・構想の学習の両方を通して歴史的思考力をつけていきたい。

◆C⑵イ(ウ)以外の「構想」の授業実践例は?

 ⇒時代の転換点(白村江の戦い、建武の新政、明治維新など)で、当時の人の立場で、この時どうすればよかったか、自分がその場にいたらどうするかなどを考えさせたものがある。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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