New!! 第190回学習会の報告

 第190回社会科学習会は、令和6年3月9日(土)新宿区立牛込第一中学校において、年度末の忙しい中ですが開催されました。玉川大学教職大学院教授 高岡麻美先生の指導のもと、学生の実践発表が行われました。開催にあたり、峯岸会長は「教員不足が心配される。現場の大量の教員の退職と若い学生の成り手不足が原因にある。今回は玉川大学教職大学院のこれから教員になる院生の発表を聞いて教育に対する意欲や、私たちができることを考えていきたい。」と、現在の教育現場を踏まえたお話を頂きました。


1.玉川大学教職大学院生の発表にあたり

 玉川大学教職大学院の高岡先生から冒頭に次のようなあいさつを頂きました。

 これから原さん、土田さん、岩切さんの3名の学校現場での実習について発表をしていただきます。原さん、土田さんは、録画での参加発表、岩切さんは対面での発表です。実習での体験発表を通して、今後より深い教職専門実習にする為に、参加された先生から授業の感想を頂き、またアンケート用紙に意見を書くこともお願いしたい。

 続いて、岩切さんから玉川大学教職大学院の紹介がありました。現職を含めた約30名の学生がおり、コースが多数あり、それぞれの意気込みを伝えました。言葉として印象的だったのは「学び合う」「仲間」「あったかい」など玉川大学の校風をイメージするような協働の学びが展開されている印象を受けました。

2.玉川大学教職大学院生 原 光虹朗 さんの発表

 内容は「二ヵ月間の実習を終えて発問型授業についての考察」です。実習校は、関東地方にある県立A高等学校で、40人10クラスの3学年、全校生徒は約1200名在籍していました。昨年9~11月の2ヵ月間が実習期間でした。学力上位校ではありますが、教員が指示を出さなければ行動できない面も感じられました。

 行った授業は、1年生6クラス各40名。担当教科は公共(主に経済)です。板書はプロジェクターで行い、必要最低限の語句をプリントの空欄に記入しました。細かい説明は口頭、適宜ノートを取らせました。研究の根幹は、「たくさん発問をする『発問型授業』と『知識羅列型授業』との比較」です(注:発問型授業、知識羅列型授業は本人の定義による言葉)。

 「発問型授業」とは、「問い」でつなぎながら展開していく授業です。教員が説明する時間を短くし、生徒が思考する回数を増やす工夫を行いました。また個人、隣同士、3~4人で考えさせるペアの工夫やシンキングタイムを30秒~2分にして生徒が「今、何をすれば良いんだ?」と感じさせない明確な指示や発問を行いました。発問の主な種類としては、「既に学習した内容を確認する発問」「新しく学習する内容に関して推測させる発問」「なぜ?を問う発問」「生徒の興味関心を高める発問」「自分だったらどうするか問う発問(答えのない問い)」などがあります。

 10クラス中6クラスで「発問型授業」、4クラスで「知識羅列型授業」を行い、また、復習を通して流れをつかませる工夫も行いました。「発問型授業」を通しての学習意欲の向上と学習定着率の高さを見たところ、実際に行った「発問型授業」では、クラスの40名ほぼ全員が挙手をして正解できたのに対して、「知識羅列型授業」の生徒は、一人も手が挙がりませんでした。アンケート調査も実施しました。「授業に積極的に参加している」という問いに対して、「発問型授業」のクラスでは、「そう思う」「ややそう思う」が8割以上、これに対して「知識羅列型」のクラスでは、「そう思う」「ややそう思う」が3割に留まりました。

 この授業における課題点としては、実習校は比較的に学力が高かったために発問型授業がうまくいったのではないか、意図がよく練られていない発問で授業を組み立ててしまった点があげられます。

<質疑等>

・知識羅列型の授業とは、どのような授業なのか? →ひたすら穴を埋めるなどの単純な授業


3.玉川大学教職大学院生 土田 翼 さんの発表

 発表内容は「中学校社会科 地理的分野の世界の人々の生活と環境」の実践についてです。実習校は、関東地方の市立B中学校で全校生徒数が200名に満たない1学年2学級の小規模校でした。私の趣味は歴史散歩です。歴史と地形を関連づけた授業を目指したいと考えています。

 実習では、歴史的分野の古代までの日本、地理的分野の世界の人々との生活と環境を実践しました。発表は後者の地理的分野で、2023年9月に社会科学習会で発表された東村山第二中学校の藤田淳先生の授業を基に実践しました。単元を貫く問いは「人々の生活の様子はどうやって決まるのか」で、この問いに関する仮説(予想)をたてさせ、それを単元の最後に振り返り検証しました。学級全体で決めた仮説の視点は、①気候、②気温と降水量です。

 授業で行った工夫として、①東京と比較し雨温図を読み取る、②写真・表等の資料と補足情報が記載されたプリントを基に、人々の生活の様子とその要因を考察する、③それぞれの地域の生活をまとめ、学習カードにて仮説があっているか振り返る、の3つを行いました。

 また、今回の授業に関して「世界の人々の生活に影響を与えるもの」に焦点をあてました。具体的には、マックのハンバーガーが世界全体で食べられるようになった理由を考察させました。インドのマックでは牛肉がないことに気付かせ、写真資料やニュースから宗教が要因になっていることを考えさせました。キリスト教やイスラム教の写真資料から、世界全体で宗教が生活に影響を与えることを理解させました。また、輸送技術の進歩が要因であることに気付かせ、教科書等の写真から建材や通信等、科学技術の進歩によるグローバル化が生活を変革していることを理解させました。

 この実践での課題は、実習校のICT環境が悪かったことから、資料の提示をプリントで行ったことでした。また、概念的知識を定着させるためにはどのような指導が必要なのか、どのような例が適切であるか、授業者からフロアへの問いかけがありました。

<質疑等>

・思考力を評価するものには、どのようなものがあるか。

→知識を結び付けなければ、答えを出せないような問題。例えば、知識・思考力を活用して解凍する記述式の問題が考えられる。


4.玉川大学教職大学院生 岩切 大樹 さんの発表

 発表内容は、第3学年「高等学校公民科(現代社会)経済分野 国際経済の動向と貧困の解消」で行った実践についてです。実習校は、都立C高等学校、中堅上位の学力層で、約10人位が国公立大学に進学しています。真面目で聞き分けが良い生徒が多いですが、一部、授業中にも関わらず受験勉強に気を取られている様子も見られました。

 経済分野では、財政、労働、金融、貿易の仕組み、為替の仕組み、戦後の経済史と投資ゲーム、そして南北問題を取り上げました。授業者が実習を終えて、単元の見通しができていない、社会的な見方・考え方を働かせるような授業になっていない、教材の工夫が足りないなどがあげられました。

 単元の最終時の「南北問題」の授業では、問いを「国家間の経済格差をなくすことには、どのような意義があると考えられるのか」に設定しました。授業ではまず、「なぜ格差はなくならないのか」を考えさせました。生徒からは「先進国による発展途上国への支援意識にバラつきがあり、ODAが目標に達していない。発展途上国の多くが紛争をしており経済発展ができていない。」などの意見が挙げられました。授業の最後に問いについて個人で考え、グループで意見交換も行いました。先進国の立場からの視点と、途上国の立場からの視点の複数の視点から格差をなくす意義について考察・言及がなされていました。

 授業者が感じた授業をやってみた感想として、「授業内容を身近に感じさせることができず、興味・関心を高めることができなかった」と述べています。授業での知識と思考のバランスが難しいなどが言及されました。

<質疑等>

・社会的な見方・考え方を働かせるには、どのような教材を用いれば良いか。

→高等学校の指導要領を改めて見たが、私が中学校の授業で行った内容の次がやりたくなるような内容になっていて驚いた。教材について教科書は非常に良くできている。掲載されている資料等を有効に活用すれば良いと思う。


参考資料:教職大学院について(文部科学省HP)

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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