第187回学習会の報告

 第187回社会科学習会は、令和5年12月16日(土)に新宿区立牛込第一中学校において、文部科学省初等中等教育局視学官藤野敦先生を講師にお迎えし、「今、再び地域に学ぶ(生徒と時空間を結ぶ社会科学習)―流通、経済等の社会変化を踏まえて―」を主題として講演をしていただきました。

 会の始めに峯岸誠会長から「教員不足の現実を近頃耳にしています。教員になっても、連休明け、夏休み明けに辞めてしまう状況もあるようです。社会科教員として、自分が楽しい、面白いと思ったことを重点的に教えてみてはどうでしょうか。教材の取捨選択は教員に与えられた権限の一つです。ぜひ教員として授業をつくる面白さを見出してほしい。」とお話しがあり、講師のご紹介の後、藤野先生の講演に移りました。

以下に講演要旨を紹介いたします。

<藤野先生のご講演>

はじめに

・高等学校数の2割削減・再編の現実が迫っています。地域内に生徒の選択余地がなくなり、学校内に様々なコースを作らなければ(学びの)多様性が狭まってしまうような状況があります。

・生徒が選択できる地域・学校が縮小する一方で、学習指導要領などでは、「地域」への再照射が現在求められています(持続可能な地域や持続可能な社会等の実現に関連する内容が増えました)。


1.「地域」と教育の現在地

・「持続可能な地域・社会」および「郷土や地域に関する教育」の視点は、社会科を中心に重視されているとともに、他教科にもまたがるものです。

・コミュニティ・スクールの増加、スクール・ポリシーやカリキュラム・ポリシー、グラジュエーション・ポリシーの設定と公表の義務化(全高等学校)が始まりました。

 ⇒育成する資質能力を明確にし、それに向けた授業構成が求められています。

・防災教育も、各教科との相互の関連を意識して運営されるものです→社会科も各教科の動きを意識する必要があります。

 ⇒まとめると、学校では地域の状況に合わせて、また、学校内各教科の状況に目を配りながら授業が計画・運営される必要があります。

(例)地理総合の C 持続可能な地域づくりと私たち では、生活圏でどのような災害が起こり、どのような防災対策が必要かを考えるなど、「地域性をふまえた防災学習」を教師が考える必要性があります。


2.身近な地域の歴史の学習から獲得する学び

・中学校では改訂により、身近な地域の扱いが若干異なっています。

(前指導要領) 地域の具体的なことがらとのかかわりあいの中で歴史を理解させます(手段)

(現行指導要領)地域に残る文化財や諸資料の活用→身近な地域の歴史の特徴を多面的・多角的に考察・表現します(対象)

※地域の特性に応じた時代を取り上げて、各時代の学習と関わらせます。

   例:古墳があれば古代で、新田などがあれば近世で

・高校日本史探究では、「近代化」の概念をベースに、「地域社会」や国民生活にどのような影響を与えたかまで考察させる点に今回改訂の特徴があります。


3.過去のある中学校での実践例から~「地域の歴史レポート」作成

・レポート作成の条件:必ずインタビューを行う(お年寄り、寺社の方など)こととし→現地調査を通して地域の歴史を知るようにします。

・教員と、途中で数回のやり取り(途中経過の提出)を行う→「評価とアドバイスシート」を付け返却

 ⇒教員から何が求められているか、不足している視点や活動(自己課題)の確認と気づきをもたらす。

・生徒の変化…歴史=「そこに人が住んでいたこと」への気付き、過去の人々が遺してくれた社会をどのように未来につないでいくか(時間軸をどうつなぐか)という意識を持つようになりました。

※「時系列で受け継いでいくこと」…歴史的分野ならではの社会参画意識、当事者意識ではないかと考えます。

・歴史的事象…何かがあったから起こった⇒当時の「社会的課題」だったと捉えることができます。

・「過去(当時)の課題背景→課題解決→結果」を学ぶことで、現代にもその見方・考え方を生かす(バトンをつなぐ)ことができるのではないでしょうか。


4.ある高等学校での地域の歴史学習の実践例

・地形図と歴史地図をもって、江戸城外堀沿いの地域を調査しました。

・巡検調査を通して、川や町の変化に気付かせました→帰ってから疑問を出し合い、その素朴な疑問を総合化、抽象化し、レポート課題を設定させました。

(例)素朴な問い:江戸時代にはなかった河道が、明治時代に新たに作られたのはなぜか?

 ⇒探究の問い:現在の東京の景観成立の背景~地域景観の変容と経済・交通の発展

 →探究の結論:鉄道発達に伴い、貨物駅から船に荷を積替え輸送するため新たに河道が作られた。この河道は現在でも都市機能の一部として、水運に利用されている。

・期末テストで、調査に行っていない地域を事例に評価問題を作成しました(汐留地域、3つの時代の変化が分かる地図を基に解答させる)。→「土地開発の経緯」という概念的知識の活用をねらったものです。

※調査活動を含め、年間計画の中で時間数等を吟味しながら計画的に実施できるとよいと考えます。

※地域の方のお話を聞き、古い地域の姿を頭の中で描きながら、現代について語っている→そのような地域の見方が生徒にもできるようになるとよいのではないでしょうか。


5.まとめ

・本日紹介したことは、特別なことではありません。日常の学習の中で少しずつ「過去(当時)の課題背景→課題解決→結果を学び、現代を見る視点にも生かす」ことが積み上げられるとよいと考えます。

・「地域」の概念は重層的になってきています。⇒地理的分野と連携しつつ、空間的な関係性を意識した歴史的分野の学習は現代的な諸課題について考える上でも大切といえます。


<質疑応答>

・歴史の「構想」(現代の課題の解決策を考える)の段階で、地域の歴史を活用することも考えられるのではないでしょうか。

 →公民との兼ね合いも視野に入れるとよいのではないでしょうか。現代社会には課題がある(課題認識)⇒解決のために、課題を歴史的に把握する(課題把握)⇔課題解決は歴史だけではできない!(歴史的分野の学習の限界)

 →これらの活動を公民的分野の導入と位置付け、公民的分野の学習をふまえ、その学習後に課題解決策を構想することも考えられます。

・歴史的に地域を学ぶことで生徒に育つ「地域に対する価値観」について、どのようなものを考えて実践していましたか。

 →小学校では人物中心、地域への愛着を感じられるような指導が一般的と考えられます。一方、中学校以上では社会構造に視点を当てることが中心となります。歴史的な視点の切り替えや比較によって、社会(構造)を見る目を鍛えることができます。そのなかで地域性や地域の歴史的な特色、課題に気付くことが、地域のもつ価値に気付くということではないでしょうか。なお、地理と歴史で「地域」について考えることは共通の部分です。

・「地域」をどのように捉えればよいのでしょうか。

 →交流圏やつながりなど、地域には多様な形もあり、広く考えることができます。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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