第 185 回学習会の報告

 第185回社会科学習会は、令和5年10月14日(土)に、新宿区立牛込第一中学校において会員の実践発表が行われました。今回は、中野区立明和中学校の長井利光先生に歴史的分野の授業実践を発表して頂きました。

 長井先生は、現在東京都中学校社会科教育研究会の歴史専門委員長を務められています。自己紹介でも触れられているように社会人として豊かな経験を生かした授業を展開されております。以下に実践発表の要旨を紹介いたします。

0.長井先生について(自己紹介)

講師の長井先生は、新聞社 3 年、社長秘書 1 年、テレビ制作会社 11 年、大学院を経て教職に就かれました。現在、教職 14 年目を迎えています。勤務校の中野区立明和中学校は、校地(校庭と校舎の間)に妙正寺川が流れているため、水害時は避難所から外れるような立地をしています。異動した際にその危険性に着目し、地域調査や区役所の危機管理課の方を招いた防災の授業を実施したそうです。

 現在「人権尊重教育推進校」である当校では、12 月にその研究発表会を行う予定です(拉致被害者家族会の横田拓也さんが講師で来る予定とのこと)。研究主任として教員研修でハンセン病資料館や産業・教育資料室きねがわ(墨田区)を巡検したり、拉致問題に関する中学生サミットに当校の代表生徒が参加したりもしています。

1.歴史的分野の授業実践について

〇単元設計方針

ロシアのウクライナ侵攻を念頭に、「歴史から学ぶ」「歴史から学んだことを生かせるような」授業にしたいと構想しました。単元設計においては「単元を貫く問い」が大切であり、特に「主体的に学習に取り組む態度」の育成につなげるよう工夫したり、過去の戦争と現代社会の課題を結び付けたりするようにしました。「どのようにしたら世界は平和になれるのだろうか?」という答えのない問いを出し、歴史で学んだことを考察の根拠として活用できるようにしました。そして「人権教育」の視点から、戦争を自分のこととして捉えることができるようにするよう工夫しました。

評価の基準として、①二度の大戦が起こった原因の理解 ②二度の大戦が世界に与えた影響の理解 ③ ①②を踏まえて、これからの平和な世界について自分なりの考えが書かれているか を設定しました。

〇ワークシート

単元を貫く問に対して振り返るワークシートの形をとり、具体的には

・第二次大戦を学ぶ前に、第一次世界大戦、世界恐慌の学びを振り返りながら「学びの予測」を立てさせ、記述させる。

・世界の流れと日本の流れを左右に並べる形に配置し、単元を貫く問い(MQ)を受けた各時間の問い(SQ)に対する答えを記入させる。

ようにしました。

〇新聞記事の活用

第1時~第3時の途中(世界恐慌後の各国の対応、日本の動き)のあと、新聞記事を活用し、

日本の戦争の歴史と現代のウクライナの戦争とで類似する状況や共通点を考察する学習を取り入れました。生徒は、日本(ロシア)が主張する言い分が世界的に孤立している状況や、歴史は繰り返すという似たような状況に注目していました。


2.戦争と平和を考える特設授業について

3年生の3月にも、戦争と平和について考える単元「戦後78年、現在のウクライナの戦争と日本の戦争の歴史を結び付ける」を設け、授業を行いました。「日本の戦争体験者」「ウクライナの戦争体験者」を同時に呼び、それぞれの体験を話してもらい、戦争から平和とは何かを考える特別講演をその中心に据えました。特別公演は、学校長や英語科先生の助けも得ながら、区役所、ケーブルテレビ局なども巻き込んで実現しました。

この時にはTV制作会社時代の手法や考え方が生かされました。力を貸してくれる人は必ずいるので、上手に活用することを皆さんにも伝えたいです。事前学習では資料を配布し、質問したいことを考えさせたうえで講演会に臨みました。事前や当日に出された質問は次の通りです。

<戦争体験者の方への質問>

・空襲警報の音について、防空壕について、部屋の明かりが漏れない工夫はどうしたか、当時どのようなものを食べていたか、憲法改正についてどう考えるか、平和とはどのようなことか、など。

⇒中野はかつて農地で、意外にも食料はあった。戦後の統治時代の統制のほうが厳しかった。政府のウソにはうすうす気づいていた。アメリカ兵に抱っこしてもらった記憶がある(お祭りなどにも参加していた)。などについて伺った。

※ウクライナの戦争についてどう思うかも聴いてみた。

<ウクライナの方への質問>

・ウクライナや日本のいいところについて、ロシアをどう思うか、戦争を終わらせるためには、中学生にできることは何か、日本の戦争の話を聞いてどう思うかなど。

⇒日本人にできることは何?…真実を知る、平和主義を貫く、医薬品や保護具を提供する、ロシアの物を買わないなどと講師の方はおっしゃっていた。

講演会の後、生徒に感想を書かせました。アメリカ兵からもらったチョコの味などの具体的経験についての話に関心をもつ生徒、現実から目をそらさずに考えることの必要性について書いている生徒がいました。戦争の悲惨さに目を向けるだけではなく、自分にできることを考えている生徒もいました。また、学習で得たイメージとの相違があったという生徒や、渦中に置かれた人の言葉の重みを感じたという感想もありました。


3.2つの実践をしてみての授業者の感想

・日本も過去に今のロシアと同じように思われていたのではないか。常に現在に起こっていることと、歴史・公民・地理をつなげていきたい。学んだことをこれからの人生に生かせるような授業にしていきたい。

・教材や授業づくりは教師に任されている部分⇒生徒の心に突き刺さる授業をつくっていきたい。

・主体的に学習に取り組む態度の育成は、その後の人生に生かせるという意味で大切。例えば、実際に選挙に行こうと思わせるような授業をつくっていく必要がある。


4.質疑応答

・単元を貫く問いのうち、「どのようにしたら世界は平和になるか」への解答では「一人一人の意識の問題」的な考察が多かったか?それとも、「制度や外交関係の発展や改善」に関するものが多かったか?平和のためにできることについては、公民的分野の学習を通してさらに学習が深まる可能性がある。歴史の学習を公民的分野の学習の際に、改めてポートフォリオなどで振り返ることができるようにするとよいかもしれない。

・第二次世界大戦の影響は、終戦までの学習ではまだ出てこないのではないか。戦後体制を学習する中で初めて戦争の影響について理解できる部分があるだろう。

・戦争が物語化している今日、ウクライナ戦争と第二次世界大戦の比較を入れたことで生徒を引き寄せる手法は意義があったと思う。ただし、両者を類似の状況として扱ってよいかどうかは疑問が残った。教師の適切なフォローが必要ではないか。

・現在進行中のウクライナ戦争をどのように教材化すべきか。(確定していない事象を扱う難しさがある)

・毎時間の問いに対する解答についての評価はどのようにしているのか?


社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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