第 182 回学習会の報告(1)

 第 182 回社会科学習会は、令和 5 年 6 月 10 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催され、会場での参加と共にオンラインでも参加していただき、実施されました。

 現在の学習指導要領で深い学びのために主体的、対話的な学びの手法が示され、併せてタブレットの導入など学習方法や環境の改善が図られました。社会科は、学習内容にかかわる課題として急激な温暖化やウクライナ紛争の背景にある中央ヨーロッパの状況、アメリカやスイスに見られる金融機関の破綻あるいは新型コロナウィルスの蔓延に関わる課題など変化する現実の社会に対応し、どのように指導し、対応することが求められているのでしょうか。また、18歳成年や選挙権が施行されていますが多くの課題も指摘されています。

 このような課題について教員養成や学習指導要領改正に関わった大杉昭英さん、金融教育に関わる専門家として東京都金融広報委員会事務局長の岡崎竜子さん、全国中学校社会科教育研究会事務局長として現場教員の立場から中野英水さんをお迎えし、「明日の社会科を語る」というテーマのもとでシンポジウムを行いました。

 なお、大変内容が充実しているので、自己紹介とディスカッション1を前半、ディスカッション2とディスカッション3を後半として、2回に分けて報告いたします。

0:登壇者の自己紹介

【大杉さん】 瀬戸内海の小さな島の生まれ。地理から公民に関心をもつように。高校教員から指導主事を経て、文部省教科調査官・視学官として平成 10 年版、平成 20 年版学習指導要領改訂に関わる。その後岐阜大学、国立教育政策研究所、教職員支援機構へ。

【岡崎さん】 日本銀行行員から金融広報中央委員会事務局へ。2021 年より、東京都金融広報委員会事務局長。最近の金融教育をめぐるトピックとして、「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が今国会で衆議院を賛成多数で通過した。成立すれば、金融経済教育を広く提供するため、「金融経済教育推進機構(仮)」が創設される。国の施策として資産形成・投資教育が重視されていくようになるが、衆議院の附帯決議では投資だけでなく生活設計、家計管理、消費者トラブル防止などの金融リテラシー全般について教育が行われるようにとされた。金融教育をめぐる動きが活発化しているので紹介する。

【中野さん】 教職 28 年目。教員採用試験を受けだした頃は、採用倍率 150 倍近かった。社会科学習会にも初期の頃から参加している。平成 23 年度の全中社東京大会の授業者、現在は、板橋区立中台中学校の副校長、全中社研事務局長。教科の研究をしっかりとやってきたことが、管理職としての仕事にも大いに生きており、自身が社会科教員であるという原点を忘れずに頑張っている。


ディスカッション1:「現行の学習指導要領についての感想」

【岡崎さん】

・金融教育の面からみると、大変素晴らしい。

金融教育とは「お金や金融の様々なはたらきを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」金融教育プログラム P10 参照)

★学習指導要領(以下、CS)の目指すものは金融教育の定義と大変似ている。「よりよい社会」という視点はこれまでなかった点である。CS をしっかり教えると、金融教育も達成されるのではないか。

 ⇔全国の先生から、「CS に金融教育はあるのか?」という質問をもらうことがある。

・中学校では、金融教育の目標項目の35/73が社会科に関わる、主に公民的分野とかかわりが深い

・注目点は、起業、フィンテック、IoT、企業会計、会計情報の文言が入ったこと。踏み込んだ記述である。

【中野さん】

・「持続可能な社会の担い手の育成」という明確な目標が示された。

・資質能力の3つの柱や、習得→活用→探究の学びの流れが示された。

・「自分ごと」としての学び、授業が「教える」から「学ぶ」へ変化している。

 ⇒主体的・対話的で深い学び、探究的な学び

・教科横断的な学び、カリキュラムマネジメントが大切である。→1+1=3以上になる!

・見方・考え方→教師の授業づくりにも、生徒にも働かせる必要性がある。

★世界基準(例:OECDのラーニングコンパスなど)に依拠した、日本の学びの基準となっている。

【大杉さん】

★「CS の根底にある考え方が明確化された(どの教科にも反映されている)」ことが大きい。

平成26年11月の中教審への諮問(問い)「実際の社会や生活で生きて働く知識を活用し、学びを社会に生かそうとするためには?」

※諮問する段階で、PISA調査(実生活にどの程度活用できるか測るテスト)の影響がある。→学んだことが学校の外で発揮されていない=コンピテンシーが育っていないという課題が浮き彫りになった。それとともに、「学ぶ意義が子供に認識されていないという」大きな課題がある

 例)外交官の採用試験のテスト上位者≠現場での業績

・CS の書き方が統一される

→「~(見方・考え方)に着目して、○○を追究する活動を通して…を身に付ける」

※社会科の学習対象にこの考え方がうまく当てはまっているかどうかはこれから検証が必要だろう。

・金融教育など、日常生活を支えるシステムについて学ぶことは、生活に生かせる学習を社会科が多く担っていることを表している。

【相互発言】

大杉:現場の教員は、どの程度(社会に役立つ) CSを授業に反映しているか?

中野:管理職も積極的に指導するなどして、ずいぶん浸透している印象。だが、進路・進学指導との兼ね合いやジレンマを感じながら指導している部分はある。管理職の立場としても、もっとよい授業についてアドバイスしていきたい

岡崎:いわゆる座学(教えなければならないこと、今までのやり方)と主体的・対話的な学びなどに「変えていこう」とする先生の意識やそのバランスは?

中野:意識はだいぶ変わってきている、ただ、どのように進めればよいかという部分でうまくいかず、教えこみになってしまう面もみられる。


社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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