第138回社会科学習会は6月16日に、「新学習指導要領を読み解く」シリーズの2回目として、公民的分野を取り上げました。講師に樋口雅夫先生をお迎えしました。樋口先生は、3月まで文部科学省、国立教育政策研究所に勤務され、4月から玉川大学教育学部に移られました。以下は,講演の概要です。
1 改訂の方向性
「何を学ぶのか」、「どのように学ぶのか」、「何ができるようになるか」、「どのように学ぶのか」については、授業改善の視点として活動を通して本質的理解に及ぶことを理解してください。また、「何ができるようになるか」に関しては、技能とともに基礎的・基本的な個別の知識と概念が含まれます。
2 社会的な見方・考え方
今回の改訂では、小中高等学校を通して整理したことに着目してください。中学校は三分野の特性と共に小学校と高等学校との接続を意識する必要があります。公民的分野では、後段で「よりよい社会の構築に向けて」とありますが、生徒に意識させるには、教師が目指す社会像を持ち,授業を構想する必要があるでしょう。また、生徒が具体的な活動を行うことを通して公民的資質が身につくことを想定しています。詳しくは、小学校学習指導要領解説 社会p20、中学校学習指導要領解説 社会p184(参考資料2 小・中学校社会科における内容の枠組みと対象)をご参照ください。
3 金融や消費生活等に関する記載を例にして、指導要領の読み解き方
学習指導要領は、「内容」と「内容の取扱」、解説は具体を示しています。
例 B「私たちの経済」 (1)市場の働きと経済
対立と合意、効率と公正、分業と交換、希少性などに着目して課題を探究したり解決したりする活動を通して、次の事項を身に付けることが出来るよう指導する。
ア 次のような知識を身に付けること。
(イ)市場経済の基本的な考え方について理解すること。その際、市場における価格の決まり方や資源の配分について理解すること。
↓
3 内容の取扱い (3)内容のBについては、次の通り取り扱うものとする。
ア (1)について(市場の働きと経済)は、次のとおり取り扱うものとする。
(ア) アの(イ)の「市場における価格の決まり方や資源の配分」については、個人や企業の経済的な活動が様々な条件の中で選択を通して行われていることや、市場における取引が貨幣を通して行われていることなどを取り上げること。
↓ ここまでが学習指導要領
ここからは学習指導要領社会 解説 p144
【2 内容 B(1)ア(イ)】 また、「市場における取引が貨幣を通して行われていること」については、財やサービスの取引 は貨幣を通して行われていることを理解できるようにするだけでなく、近年ではICTの発達など により、フィンテックと呼ばれるIOT、ビッグデータ、人工知能といった~(以下略)。
学習指導要領の「内容」と「内容の取扱い」そして「学習指導要領 解説」の関係は上述のとおりとなっています。解説に示されたような指導をするためには、社会科教師としての専門性の発揮が求められます。そのためには、出前授業などで専門家を活用するなどの工夫も必要です。また、「選択」という概念については生活との関わりをもたせることで自分のこととして捉えさせることができます。そのための工夫が必要となります。さらに、他領域との関連やマクロ経済に向かってい く問いも求められるでしょう。
4 対話的な学び、深い学び
【対話的な学び】
子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手がかりに(先哲の考え方は倫理的な内容に関連する)。また、人との対話だけでなく、資料と向き合う、例え ばグラフや史・資料の読み解きも含め幅広く捉える必要がある。
【深い学び】
より深く理解したり、考えを形成したり、思いや考えを基に創造したり~ 従来はややもすると知識を100%習得させることが求められていたが、知識を50%程度習得させ たら、対話を通して構造化を図るなど視野を広めさせることが必要である。
5 アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善
(単元等のまとまりを通した学びの実現) 「主体的・対話的深い学び」は、1単位時間の中で考えるのではなく、単元や題材のまとまりの中で主体的な学習の場面、対話する場面などをどこに設定するか、学びの深まりを作り出すために、子どもが考える場面や教員が教える場面をどのように組み立てるかといった視点で実現されます。
(発達の段階や子供の学習課題に応じた学びの充実) 「主体的・対話的深い学び」の具体的な在り方は、発達の段階や子供の学習課題等に応じて様々です。工夫を重ねて、確実な習得を図ることが求められます。高度な社会課題の解決だけを目指したり、そのための討論や対話といった学習活動を行ったりすることのみが「主体的・対話的深い学び」でない点に留意が必要です。
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