第 181 回学習会の報告

 第181回社会科学習会は、令和 5 年5月 13 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催され、会場での参加と共にオンラインでも参加していただき、実施されました。今回は、江東区立有明中学校で社会科教員に復帰された竹原眞先生を講師としてお招きし、「社会科と私」というテーマのもとで講演を伺いました。

 竹原先生は江東区立深川第四中学校の校長先生としてご活躍されるとともに、元全国中学校社会科教育研究会でも会長を務められた先生です。このような経歴を経て定年を機に、再度、社会科教員として現場に復帰し、教材研究に取り組まれているという大変貴重な経験を聞く機会となりました。

 講演の中では、竹原先生が歴史の授業で使用するために開発された自作動画を数本視聴させていただき、竹原先生の社会科の授業への熱意や愛情を感じるとともに、改めて社会科教員として実際に現地に足を運ぶことの大切さを学ぶことができました。

 以下に実践発表と講演の要旨を紹介いたします。

竹原 眞先生のご講演 「社会科と私」

(1)自己紹介

 初任校で元全中社研会長の園田先生や元関ブロ会長の小林誠先生と同じ学校に着任し、社会科を勉強する機会をいただきしました。3校目で江東区に異動し、区中研の際に都中社研の歴史専門員を引き受けたことを機に、都中社の歴史専門委員に関わるようになりました。

 社会科学習会は園田先生にお誘いを受けたことで、平成 17 年頃から参加するようになっています。高山先生や峯岸先生から多くのことを学び、本当にありがたい場だと感じました。

 その後、副校長になった頃に小林先生から連絡があり、都中社の事務局長を務めることになったことで、管理職という立場として都中社研や社会科学習会に関わるようになりました。全国中学校社会科教育研究会の会長を高岡先生から引き継いで以降は、コロナ禍もあり、大変な時期もありましたが、何とか東京大会を開催することができてほっとしています。


(2)教科書の記述で考えたこと

「歴史の教科書を読んでいて寝てしまったことはありませんか?」

 教科書は事実と結論があっさり書かれています。例えば山川出版社の歴史の教科書のペリー来航の記述から、「1853 年にペリーが浦賀に来航しました」という記述がありますが、「何でペリーが浦賀に来たか?」という疑問をいだく生徒も多いはずです。そこで、実際に浦賀を訪れて、それを映像化してみたので、ぜひご覧ください。

(実際の学習会では、竹原先生が浦賀に行かれた時の映像を 20 分ほど視聴しました。映像には竹原先生の解説付きで陸地からの映像だけでなく、船にも乗って湾の景色や位置を確認するなど、様々な角度から映像化されていました。また、台場にも足を運び、ペリー来航後に設置された台場の砲台の跡地なども映像に収められていました。)

 このような形で、教員の中で意味付けしながら生徒に映像を視聴させることで、生徒たちの歴史認識を高めるとともに興味をもって聞いてくれるのだろうと思います。


(3)コロナ禍での身近な地域の歴史の実践例

 このような映像を作ろうと思うきっかけになったのはコロナの影響が大きく関わっています。2020 年3月に一斉休校になったことで何もやることがなくなり時間的なゆとりが生まれました。そこで、可能な限り動画を撮影し、授業再開後、コロナ禍でも使える映像を作ろうと思うようになりました。

 江東区の副読本「私たちのまち 江東区」の内容を参考に、この副読本の内容を映像化したら面白いのではないかと考えました。まずは江東区の一周を歩いてみることからやってみましたが、結果 53 ㎞歩く羽目になってしまいました。

 副読本の中の「身近な地域の歴史を調べよう」という項目の「江東区の近代産業を調べる」という教材があります。これを映像化してみることにしました。動画で江東区に残っている工場のあと地をめぐっている様子を視聴させながら、その工場がどこにあるかを分布図で把握させることで、「工場が海に面した地域に建設されている」ことを確認させます。そして、その工場がいつできたのかを年表にまとめるとともに、その工場で何を作っていたのかを調べさせる活動を行いました。このような活動を通して、身近な地域の歴史的な役割に気付かせることができるような内容としました。コロナ禍でグループでの活動が制限されていたタイミングだったので、動画は有効な手段だったのではないかと感じています。

(こちらについても竹原先生自作の動画を実際に 15 分ほど視聴しました。現在は工場だったところが再開発され、タワーマンションになっていたり、大型ショッピングモールになったりしています。生徒たちもよく行くようなレジャー施設が、工場のあと地だったことを知ることにより、当事者意識をもって身近な地域への理解を一層深められるだろうと感じました。)

 このように、副読本に書かれている内容について 20 本くらい映像化しました。


(4)最近の実践例 中世の歴史

 ここからは社会科教員に復帰してから作成した動画をご紹介します。中世の歴史の研究授業を見ると、中世は武士の時代か、庶民や農民の時代かを考えさせるような授業が散見されます。しかし、実際には中世の歴史の流れの中で、「庶民や農民はどうなっていったのか」、「武士はどうなっていったのか」を考えさせた上で「中世はどのような時代だったのか?」を考えさせることが大切なのではないかと感じます。教員復帰したのを機に、実際に自分で教材化をしてみました。

 鎌倉時代の農民の様子を描いた史料を見ると、地頭や荘園領主の支配が厳しくなり、苦しい生活の様子が見られます。やがて、農業の発展により、農民の生活が良くなり豊かになっていきました。生産能力が高まったことにより、村ごとの争いが見られるようになったことで、皆で生産能力を高めて結束しようという“惣”が各地に見られるようになりました。そして、1428 年の正長の土一揆のように、無理やり支払わされていた農民が実力で徳政令をつかみ取ることができるようになりました。このような流れは、正長の土一揆の石碑を見せただけでは、農民の成長の様子はつかめません。このような流れをつかむためにも動画による教材化は有効であると感じます。そこで、コロナ禍で暇だったこともあり、実際に奈良に行ってきました。

(ここで実際に竹原先生が奈良に行かれて作成した動画を視聴しました。正長の土一揆の碑文を実際に映像に収めるだけでなく、地理的な位置関係も含めて、農民が借金を帳消しにできた背景も解説されていました。今回は「中世の庶民・農民編」の動画しか見られませんでしたが、実際には「中世の武士編」も作成されていたとのことでした。)


(5)結びに

 今は、「AI時代の社会科教育の在り方はどうなるのか」を考えています。最近、自分のスマートフォンにMicrosoft Bing という生成AIアプリを入れました。今、このようなAIに質問するとある程度の知識を答えてくれます。このような時代の中で、社会科教員はどうすれば良いのか、学習会でも考えていくべき内容であると感じます。基本となる教科書をどう使うのかを真剣に考えてほしいと思います。

 また、若い先生に向けてはライフステージを考えて仕事をしてほしいです。私も学年主任や副校長、校長という職を経験しました。しかし、60 歳を過ぎてからのことをあまり考えていませんでした。人生 100 年時代、定年後の自分の姿も考えておくことを私から若い先生方へのアドバイスの一つとして贈ります。 

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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