第177回学習会の報告

 第177回社会科学習会は、令和5年1月21日(土)に牛込第一中学校で開催されました。会場での開催と同時に、オンラインも併用しつつ実施しました。

 今回は、磯山恭子先生(文部科学省 教科調査官)を講師にお迎えし、「中学校社会科における課題を追究したり解決したりする活動の充実-公民的分野大項目B「私たちと経済」を事例として-」というテーマでお話しいただきました。新しい学習指導要領でのもとでの「主体的・対話的で深い学び」や「社会的な見方・考え方」、「学習評価の改善」について、豊富な資料を使って分かりやすく解説していただきました。

1.主体的・対話的で深い学び

 現在、社会は大きく変化している。IoTによる人とモノのつながり、少子高齢化や地方の過疎化のイノベーションによる克服、AIやロボット、自動運転の拡大など「Society5.0」に向けて社会の変化は急激である。2040年には多くの新しい技術で社会はさらに変化するだろう。このような社会の状況や変化を踏まえて、公民として必要な、どのような意識や能力が求められるようになるのだろうか。このような背景から、新しい学習指導要領は作られている。

 まず「指導計画の作成に当たっての配慮事項」は以下のように説明される。

単元など内容や時間のまとまりを見通して、その中で育む資質・能力の育成に向けて、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。

社会との関わりを意識した課題を追究したり解決したりする活動の充実を図ること。

⇒これは、「課題を主体的に解決しようとする態度の育成」であり、社会問題を扱うという社会科で重要な点である。

 新しい学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」、「見方・考え方」、「問い」は以下のように考えられる。

〇これからの時代に求められる資質・能力を身に付けさせる

 ⇒「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進が必要

  (アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)

 ⇒ 深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要

 ⇒ 各教科等における「見方・考え方」を働かせる「問い」の設定が不可欠

 深い学びの実現のためには、「見方・考え方」を用いた考察、構想や、説明、議論等の学習活動が組み込まれた、課題を追究したり解決したりする活動が不可欠である。


2.社会的な見方・考え方

 中学校の「公民的な分野」の見方・考え方は、「社会的事象を政治、法、経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え、よりよい社会の構築に向けて、課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付け」るものである。中学校社会科公民的分野の学習内容と各大項目で着目する概念は以下の通りである。

<公民的分野の学習>    <着目する概念>

A 私たちと現代社会    位置や空間的な広がり、推移や変化、対立と合意、効率と公正

B 私たちと経済      対立と合意、効率と公正、分業と交換、希少性

C 私たちと政治      対立と合意、効率と公正、個人の尊重と法の支配、民主主義

D 私たちと国際社会の課題 対立と合意、効率と公正、協調、持続可能性

 例えば「B 私たちと経済」の学習では、「対立と合意、効率と公正、分業と交換、希少性」などの見方・考え方を用いる。「市場の働きと経済」の学習では、「市場経済の基本的な考え方、現代の生産や金融などの仕組みや働き、勤労の権利と義務、労働組合の意義及び労働基準法の精神」などを学ぶ。この時に、問いを作る必要がある。例を挙げると、「なぜ市場経済という仕組みがあるのか、どのような機能があるのか、なぜ金融は必要なのか、個人や企業には経済活動においてどのような役割と責任があるのか」などである。問いを作るときには、「切実感を生徒が持つこと」が必要である。学習を通して生徒の見方・考え方を鍛え、生徒の「概念的枠組み」をより豊かに、強固にしていくことが求められる(下図参照)。また、この概念枠組みは、生徒によって一人一人異なるものになるだろう。

 

 見方・考え方に関する留意事項は以下の通りである。

・教師は、授業を計画する際、「見方・考え方」を働かせているのか。

生徒が「見方・考え方」を働かせたかどうか、そればかりが注目されないか。資質・能力が身についたかどうかこそ大切。

・「見方・考え方」にのみ注目しておけば、「主体的・対話的で深い学び」が実現できるか。※ 意見交換すれば考えは深まるのか。


 「『見方・考え方』を働かせた学習過程と授業づくり」の流れは以下のように示される。単元を見通した授業づくりが求められている。また、公民的分野では「考察」を重視してほしい。深く考える手立てを行い、拙速な「構想」をしないように留意して欲しい。

3.学習評価の改善

「指導計画および評価計画の作成から評価まで」の流れは、下図の通りである。

①まず、問いを設定する。次いで、②評価する場面を設定する。そして、③「評定に用いる評価」と「学習改善につなげる評価」を設定する。また評価規準を作る際、「おおむね満足できる」状況(B)を具体的に設定することが求められる。

 評価のうち、「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」および「主体的に社会に関わろうとする態度」の評価ポイントは以下の通りである。

・「思考・判断・表現」については、「現代社会の見方・考え方」など、「社会的な見方・考え方」を働かせ、習得した知識及び技能を活用しながら考察、構想し、表現できているかを評価する。 

・「主体的に学習に取り組む態度」のうち、「自らの学習を調整しようとしながら粘り強く取り組む状況」については、単元末で、単元の始めに立てた見通しを踏まえて学習を振り返り、次の学習や生活に生かすこととして見いだした内容により評価する。

・「主体的に社会に関わろうとする態度」については、単元の学習後も関心をもって自ら追究し続けたい、解決、改善を図っていきたいこととして見いだした、問いの内容とその社会的意義の記述によって評価する。


4.主権者に関する教育の取り組み

 主権者に関する教育の目的は「単に政治の仕組みについて必要な知識を習得させるにとどまらず、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身に付けさせること」であるとされる。この時に重要なのは、「社会とのかかわりを生徒に実感させる」という点と「関係諸機関などとの連携・協調」である。

この点を踏まえた授業実践の事例については、

「小・中学校向け主権者教育指導資料「主権者として求められる力」を子供たちに育むために」(https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00085.html)に掲載されている。参照して欲しい。


5.報告を聞いて

 1時間半の講演で、公民的分野の授業の作り方をコンパクトでかつ具体的な事例で説明していただいた。「主体的・対話的で深い学び」、「社会的な見方・考え方」や学習評価の考え方は、地理や歴史単元の授業づくりにも参考になるものである。本日の内容を踏まえた授業実践を社会科教員が行っていくことで、新しい学習指導要領の確かな実践が図られるものと考える。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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