第 178 回学習会の報告

 第 178 回社会科学習会は、令和 5 年 2 月 18 日(土)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回も会場開催と同時に、オンラインで参加していただけるようにしました。

 今回は、「電子教科書・ICT 教育機器等の使い方」というテーマで、会員の実践発表と教科書編集や教材編集に関わっている方から講演をいただきました。会員の実践発表は、墨田区立桜堤中学校の泉宮一喜先生にしていただき、ICT を活用した授業の実際について発表していただきました。教科書編集者として株式会社帝国書院の石黒広純氏から「デジタル教科書の活用〔教科書出版社の立場から〕」という主題で、教材編集者として株式会社新学社の鈴木里映氏から「紙教材とデジタルの効果的な融合に向けて」という主題でご講演をいただきました。以下に実践発表と講演の要旨を紹介いたします。


1.学校現場での実践発表(泉宮一喜先生)

 泉宮先生は、大学で峯岸先生に指導をいただき、在学中から社会科学習会で勉強をしていました。2013 年 4月より渋谷区立笹塚中学校、2021 年4月より墨田区立桜堤中学校に勤務しています。以下、発表の要旨です。

 Society 5.0 時代に生きる子供たちにとって、ICT の活用は日常のものであり、世界に繋がる革新的な扉となる。GIGA スクール構想、学校 ICT 化実現のための施策が、コロナ感染症の広がりで前倒しになった。デジタル・シチズンシップ教育も課題となっている。

 笹塚中学校では、2017 年に渋谷区教育委員会 ICT 教育推進校として生徒一人1台のタブレット端末が整備され「いつでも、どこでも情報端末を活用できる」学習環境での学びを実践し、2020 年9月に surface go2 が導入され、ハイスペックな学習端末を使った学習環境での教育活動に取り組んできた。

 コロナ感染症の対応では、オンラインで学活を行い、対面での学習のグループ活動でも Teams を活用して授業をすすめた。また、Excel を活用し、計算や統計、株式の学習などを行った。修学旅行の行程表作成にも活用し、事前学習の時間を少なくすることもできた。

 墨田区立桜堤中学校では、墨田区教育委員会 ICT 推進校としてICT機器、タブレット端末を積極的に活用して、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するための授業実践に取り組んでいる。ロイロノート・スクールを積極的に活用しているが、とても使いやすい。

 三権分立の授業では、内閣や国会、裁判所について様々な資料を用いて生徒に調べさせ、裁判所の違憲立法審査権の役割について考えさせ、生徒がまとめたものを全員で共有し、考えを深め、リアルに三権分立を学ぶことができた。坂本龍馬の政策についての学習では、生徒に共有ノートに書き込ませ、ダイヤモンドランキングを活用して政策にランクを付け、自分の考えと比べさせ、気が付いたことを付け加えさせることで学びを深められた。また、修学旅行のまとめをムービーで作成し、保護者にYouTubeの限定公開で配信した。

 校内研修では、CBT による学力評価の課題について取り組んでいる。コンピュータを使っての学習では、スクロールをして学ぶ国語などの学習での理解力が下がる傾向がある。画面による刺激やスクロールに時間がかかるなどが影響していると考えられる。インプットは、紙の方が頭に入りやすいのではないかと思われる。アナログの良さ、デジタルの良さを見きわめて指導することが大切ではないかと考える。

 2018 年、渋谷区シリコンバレー青少年派遣研修に参加し、進化し続けるアメリカ企業の実情を知り、日本社会の進歩のため、教師が変わることによって学校が変わることの必要性を感じています。


2.教科書出版社の立場から~デジタル教科書の活用について(石黒広純氏)

(1)  国内の ICT 事情の整理

 教科書出版社は、文部科学省の動向や国内の ICT 事情を把握した上で、デジタル教科書・教材を作成していく必要がある。文部科学省、経済産業省、総務省の連携で GIGA スクール構想を5年間で実現する予定だったが、コロナ感染症により前倒しで実施された。令和2年4月から生徒一人1台のタブレット端末の配布が始まり、無線 LAN 整備率とインターネット接続率はほぼ 100%となり、教員の校務用コンピュータは一人1台以上になっている。令和3年7月末時点の整備済み端末に対する OS ごとの割合は、ChromeOS:40.1%、Windows: 30.4%、iOS:29.0%となっている。文部科学省は、クラウド活用を前提とした予算措置をしているため、その予算のみでChromebookを配布した自治体は、クラウドサーバーを準備しなければならない。弊社でも、弊社のクラウドを利用していただく準備を進め、クラウド版の教科書・資料等も作成している。

 「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」では、デジタル教科書や教科書制度の在り方が検討されている。児童生徒の学びの質を充実させるためのデジタル教科書はどうあるべきか議論が進められている。また、現在教材扱いのデジタル教科書を法令上の「教科用図書」として位置づけるべきか、検定、採択、供給などの教科書制度の在り方をどのようにすべきかについての検討も進められている。

(2) 帝国書院のデジタル教科書・教材が目指したもの

 児童生徒のより良い学びの実現に向けて、紙とデジタルのそれぞれの良さを適切に組み合わせて使用する視点が大切と考えている。

 誰もがデジタル教科書を活用した授業ができるように、指導者用に5つの授業支援ツール(授業スライド、構成案、指導案、学習の見通し・振り返りシート、学習プリント)を用意している。授業スライドはカスタマイズでき、ワークシートは紙でプリントして配付することもできる。デジタル教科書では、例えば絵巻物の全体を示すことができたり、地図のレイヤー機能を活用することで、多様な視点から学びを深めることができる。地図のレイヤー機能では、授業で必要な地図の要素を示すことができ、紙では難しいデジタルならではの機能といえる。授業に活用していただければと思う。

参考資料 帝国書院 中学校社会 Web


3.教材会社の立場から~教材とデジタルの効果的な融合に向けて(鈴木里映氏)

(1) 紙教材とデジタルの融合

 弊社で私は、小中学校のデジタル教材の開発に携わっている。手で書くことなど身体的活動による学習効果、多様な教材を同時に見たり、読んだりできる活用のしやすさ、どのような学習環境でも確実に使える紙教材の良さを大切にしていきたいと考えている。一方、タブレット1台で情報共有・連携が容易なこと、多様な表現が可能なこと、検索機能を活用して多くの情報を収集・活用できることなどデジタルの良さを取り入れていきたいと考えている。紙教材のよさを活かしながら、紙教材の学習ログをデジタルデータに変換し、活用できないか追求したり、紙教材とデジタルを融合させ、指導の個別化、学習の個性化を図り、個別最適な学びに役立つような教材を検討・作成している。

(2) 新学社の取り組み

 地理、歴史、公民資料集は、デジタル版も作成し、無料で豊富な統計資料や詳細な解説など、教材に準拠したコンテンツを利用できるようにしている。学習サポートシステムという先生・生徒のための専用 WEB アプリサイトを立ち上げ、学習を計画的に進め、教材に合わせた課題に取り組めるようにしている。

 例えば、弊社のバラプリント用集計ソフト Sasatto は、スキャンされた答案の画像を読み取り、結果を自動で集計することができる。観点別の集計も可能である。単元プリントの採点結果を読み取り、小問別の正誤データを集計、分析、評価し、校務支援アプリと情報を共有することもできる。

 教育データの標準化への対応、学習ログ分析の精度の向上、個人情報保護への対応、情報リテラシー格差への対応などの課題に向き合い、学校現場に必要とされる教材開発に向けて「不易流行」で邁進したい。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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