第162回学習会の報告

 第162回社会科学習会は、令和3年4月17日(土)に牛込第一中学校で開催されました。昨年の12月以来4か月ぶりの会でした。今回は高岡麻美先生(玉川大学客員教授・元全中社研会長)を講師に、「社会科教育 これまで そしてこれから ―「つなぐ」「つなげる」―」というテーマで、お話しいただきました。講演では、社会科教師時代の思い出、管理職になってから意識したこと、若手教員へのアドバイスなど、幅広い貴重なお話を伺うことができました。


1.これまで ~初任から管理職まで~

 高岡先生の教員生活は、東京の西部で始まりました。町田市の初任校から、稲城市や調布市といった多摩地区の中学校を経験されたそうです。当時は、中学校の1~3学年で20クラス、1000人規模の学校に勤め、生徒総会では生徒はジャージ姿で、校庭で座って行うといった様子でした。当初は、あまり教材研究に力を入れなかった、多くの先生方の授業実践を「パクっていた」と謙遜して話をされていましたが、そんな中で、社会科教育の学習のため都中社の地理部会に入り、そこで多くのことを学んだとのことです。

 高岡先生は、「生徒にとって居場所のある授業」を心がけたそうです。居場所のある授業とは、第一に生徒を「知的に満足」させること、第二に生徒を「心情的に満足」させることを意味します。生徒に「知的に満足」させる授業を行うためには、教員に「深い教材研究」が必要とされます。また、生徒に「心情的に満足」させる授業を行うためには、教員に「深い生徒理解」が必要とされることを強調されました。

 平成16年度から立川市で主幹教諭となり、さらに平成18年度から府中市で副校長、平成23年度には東大和市で校長に就任します。管理職になると、自分の教科を教えるという立場から、学校全体の教育の方向性を決定する立場になります。その際にはPISAの調査結果や、それにともなう学力向上や読解力の育成といった課題を意識せざるを得なくなったそうです。是非、各先生もPISA調査の問題を解いてみて、今求められる読解力を理解して欲しいともおっしゃっていました。

2.これから ~必要とされる「教材観」~

 管理職という立場では、若手教員の悩みを聞いたりアドバイスしたりする機会が増えます。若手教員の悩みから、「何を教えていいか」、また「どのように教えたらいいか」わからないという言葉を聞きます。単純に知識が足りない、というケースもありました。例えば「モノカルチャー経済」が分からない若手の先生もいました。また、教科書的な知識はたくさんあるが、「何が重要かわからない」、「全体が見通せない」という悩みを持つ先生もいました。また最近では、「単元を貫く課題をどのように授業で使ったらよいかわからない」という声をききました。

 このような悩みに対して、第一に「教材観」を持つことが重要です。教材観とは、「その単元(教材)で教師が伝えたい学習内容と学習方法」のことです。その教材の持つ価値を知り、「教材化する力」が教師には問われます。教材観を得るにはある程度経験が必要で、繰り返し各分野や各単元を教えていくうちに、「これを先に教えると次の段階の時に使えるな」というような意識が働き、深い授業につながります。言い換えると「様々な知識の立体化」が計られます。

 第二に社会的な「見方・考え方」を働かせて、授業を構成する必要があります。例えば、歌川広重「東海道五十三次」の「原 朝之富士」を教材化するとしましょう。美術的な見方・考え方では「富士山の高さの表現」が強調されるかもしれません。国語的な見方・考え方では、「浮世絵を見て作者の心情を読み取ろう」となるかもしれません。社会科であるならば、「五街道のどこから見たものだろうか」と歴史の授業の中で扱えるでしょう。このようにある教材を見て、自分であればその素材を使い、どのような社会的な「見方・考え方」を働かせた授業を行えるか、考えるクセをつけることが必要です。

 また例えば、小金井市の人口の推移を見て、教材化してみましょう(グラフは「小金井市人口ビジョン 小金井市まち・ひと・しごと 創世総合戦略」(平成28年3月小金井市)6ページにあります)。

 グラフを見ると、小金井市は人口が増えていることが分かります。では、小金井市の課題はなんでしょうか?世帯人員のグラフを見ると、一世帯当たりの世帯人員が減っていることが分かります。これは単身者が多く、未婚率が高いのかもしれませんし、高齢者のみの世帯が増えてきているのかもしれません。そう考えると、小金井市の人口は、この先どうなっていくでしょうか。また小金井市が抱える課題はどういうものがあるでしょうか。地域の在り方について考えることができます。

 教員にとっては、「目に映るものすべてが教材」です。生徒に「社会科で学んだことをもとに、学ぶ」、「社会科を通して、社会を見る」までにさせたいものです。「社会科の道は全てに通じる」といった気概を持って、学んで欲しいと考えます。

3.「つなぐ」「つなげる」

 高岡先生は、平成29年から平成30年にかけて、全中社研の会長を務めました。全中社研は2045年大会まで、大会開催地が決定済みです。これは、将来を見据えて、社会科の研究を進め、またそのための人材を育てて欲しい、という狙いがあります。ベテランと若手教員とが、ともに研究を積み重ね、次世代へとつなげていくという機能が求められています。


 今回の講演では、高岡先生の社会科教員としてのあゆみ、また管理職としての活躍、さらには教材観についての幅広い実例と実践方法をお聞きすることができました。また都中社や全中社の役割やそこに対する熱い思いを伺うことができました。

社会科学習会ホームページ

社会科学習会は、若手教員を中心に、中学校社会科の指導法や教材開発等について学びを深めたい人たちが集う会です。会長の峯岸誠先生(元 玉川大学教授、元全中社研会長)、岩谷俊行先生(元全中社研会長)のもと、東京都内で基本的に月一回定例会を開き、年に一回は巡検を行っています。学習会への参加は随時受け付けています。社会科の力を付けたい先生方、一緒に勉強しましょう!

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