新年あけましておめでとうございます。
一昨年末から新型コロナウイルスの蔓延防止に伴う様々な取組に追われ、慌ただしい中で終わった令和二年でした。関東平野は快晴の中で令和三年が明けました。皆様はどのようにして新年をお迎えでしたでしょうか。第三波といわれる蔓延ですが、児童生徒のために教職に関わる意識と自覚そして何よりも知恵と工夫でこの難局を乗り越えましょう。
第161回の学習会は年末の12月26日(土)に新宿区立牛込第一中学校を会場として開催されました。今回は平成3年度から学習指導要領が全面実施されることに伴う評価について発表と意見交換が行われました。講師は藤田淳(港区立高松中学校)、渡邊智紀(お茶の水女子大学附属中学校)、金城秀和(東京学芸大学附属中学校)の各先生でした。藤田、渡邊の両先生は、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」の調査研究協力者を務められました。年末でしたが大変活気のある会となりました。以下に概要を記します。
1 主体的に取り組む態度の育成(藤田淳先生)
(1)3つの資質・能力と評価の3観点の関係(参考資料 P8 図3)
・今回の学習指導要領改正で育成を目指す資質・応力が3つの柱(「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向く力、人間性等」)に再整理された。
・これを受けて学習評価の基本的な枠組みとして、「知識。技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「主体的に学習に取り組む態度」が観点として示された。
(2)主体的に学習に取り組む態度とはどのようなものか
・「知識。技能」、「思考力、判断力、表現力等」 = 認知能力
・「主体的に学習に取り組む態度」 = 非認知能力
(認知能力以外の能力を幅広くさす用語、「読み・書き・計算」などに対してIQのように数値化しにくい能力。)
(3)主体的に学習に取り組む態度の評価(参考資料 P12 図4)
・学習指導要領改善に関する中教審答申では、「自己調整」と「粘り強さ」の側面から評価すると示している
・粘り強くないのに自己調整ができていたり、粘り強く取り組んだのに、自己調整ができていない姿は一般的ではない。
・単なる継続的な行動・積極的な発言等などの性格や行動面の傾向を評価するのではなく、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤しながら自らの学習を調整しながら学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価してゆく。
・改善等通知文に示された「主体的に学習に取り組む態度」の「観点の趣旨」の文末は3分野とも「~しようとしている」であり、「できた」かどうかは問われていない。
(4)主体的に学習に取り組む態度の評価単位
・参考資料では「内容のまとまり=学習指導要領の中項目」を基本として示している。
・例えば、「日本の諸地域(地理的分野)」は32時間程度、「近世の日本(歴史的分野)」は28時間程度、「民主政治と政治参加(公民的分野)」は22時間程度の扱いとなり、単元設定の工夫が必要である。
(5)評価の方法と課題
・振り返りシート等のコメント欄を読み取り活用する(形成的評価)方法がある。
・「内容のまとまり(中項目)」ごとの評価は現実的か
→ 任意の単元を組み合わせて評価することが現実的ではないか。
・振り返りシート等のコメント欄の読み取りは現実的か
→ 教師のコメントは適宜とし、良いところとそうでないところを色分けして下線を引いて示す工夫をしている。
2 指導と評価の一体化をめざして(渡邊智紀先生)
(1)各観点で評価すべきことに大きな変化はあるのか
・「知識・技能」・・・個別の事象の理解だけでなく、「概念的な理解、活用できる技能」も評価することがポイントとなる。
→ ペーパーテスト(事実的な知識の習得と知識の概念的な理解を問う設問のバランスに配慮)、文書による説明をさせる、実際に知識や技能を用いる場面を設けるなど評価場面の工夫をする。
・「課題を発見・解決するために必要な思考力、判断力、表現力等」
上記の下線部を効果的に授業内に設定し、指導・評価する。
・文科省が行っている「中学校卒業認定試験」の設問は良問が多いので参考にするとよい。
(2)「学習改善につなげる評価」と「評定に用いる評価」は、何が違うのか
・参考資料ではp43~44でこの二つを示しています。
・「学習改善につなげる評価」⇒ Assessment
→ 学習状況の情報収集および、授業中における生徒の反応に対して常時心がけるべき「指導」 ⇒ 「指導と評価の一体化」の趣旨に留意することが必要
・「評定に用いる評価」 ⇒ Evaluation
→ 評定のための資料として用いる評価を集め、数量化、記号化すること。計画的な実施や、信頼性と妥当性を担保することが必要。
(3)「評定に用いる評価」はどのくらいの頻度で行うのか
・評価に費やす時間等の節減は働き方改革への対応として必要である。
・「知識・技能」や「思考力、判断力、表現力等」は少なくとも「内容のまとまり」ごとに評価する必要がある。
・「主体的に学習に取り組む態度」は、複数の「内容のまとまり」にまたがる長期的な視野で評価することも考えられる。(参考資料 p54~ P64~)
(4)「技能」の評価対象が、学習指導要領の中項目に示されていない場合はどうするのか
・学習指導要領の「内容の取扱い」や同解説P186~187の「参考資料3」を参考にして、単元で指導・評価するのにふさわしい内容を適切に取り入れ、指導・評価する。
・参考資料p60~p61にも事例が示されている。
・習熟の深まりを意識して計画的に指導・評価する。
(5)主体的に学習に取り組む態度の評価に関して
・生徒に身に付けるべき資質・能力の具体的なイメージを持たせるとよい。
→ 生徒に自らの学習の見通しを持たせ、自己の学習の調整を図るきっかけとする。
(6)学びに向かう力、人間性は評価しなくてよいのか
・感性や思いやりなどは観点別学習状況の評価になじまないので「個人内評価」とします。
・生徒一人一人の良いところや可能性、進歩の状況などを積極的に伝えましょう。
(7)観点の評価基準や評定への換算はどのように設定するのか
・観点の評価は、三段階(A、B、C)⇒その目安(基準)は?
・観点別評価を総括した評価は、五段階(5、4、3、2、1)⇒総括の方法は?
・東京都教育委員会も今回は数値や換算の指針を示していない。
→ 「報告」はこれまで通り「各学校で~」としている。学校や設置者(教育委員会)単位で十分に検討する機会をもつことが必要であろう。
※どのような方針や考え方によって評価を行うのか事前に生徒(保護者)に示し、共有することも重要である。評価情報の共有が評価の妥当性や信頼性を高める。
(8)結びに
・「指導と評価の一体化」は“フダン(普段、不断)“の努力が必要!
・目をかける 声をかける 気にかける ⇒ 形成的評価、個人愛評価を大切に
・評価で悩んでいるのは自分だけではない! ⇒ 他の先生方の取組を参考に、より良い評価を目指しましょう。
3 公民的分野の実践事例(金城秀和先生)
(1)学習指導要領改正の趣旨
・高等学校の授業改善が主たる目的にあり、小中学校はこれまでと同じように工夫や改善を求めている。
→ 小・中学校においては、これまでと全く異なる指導方法を導入しなければならないと浮足立つ必要はなく、これまでの教育実践の蓄積を若手教員にもしっかり引き継ぎつつ、授業を工夫・改善する必要。
(2)評価から授業改善を
・課題解決学習 ⇒ 自己調整、ねばり強さ
課題設定 → 見通し(仮説)を立てさせる
⇓
・「知識・技能」が身に付いているかの検証
・調べ、対話し、振り返り、自己評価をさせる
・評価材 ⇒ ノート 「今日、分かった疑問」を重視
振り返り 授業に対する自分の取り組み
単元の取組 レポート課題、「知・技」を活用し、「思・判・表」する課題を提示
(3)実践事例の紹介
・タレント議員が問題なのか ⇒ 選挙制度(比例代表制)、低投票率
課 題 より良い社会を作るためには?
⇓
日本をよくするために投票する
どのような候補者に投票するのか(視点・・有権者、政党)
4 質疑から
・妥当性を持った評価基準の設定の仕方は?
・評価材としてワークシートは有用だが、生徒にコメントをいつ書かせるのか。教師の点検の頻度やコメントはどうするのか。
・「三観点の評価」の「評定への総括」をどうするのか。
三観点を完全にフラットにできない(100/3)⇒ 「重み付け」を考えるのか?教科の特性を活かせないか。
・「主体的に学習に取り組む態度」は教師の主観が入るから比重を下げてはどうか。
※「参考資料」・・・「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」令和2年6月 国立教育政策研究所編
※「報告」・・「児童生徒の学習評価の在り方について」(報告)平成31年1月21日 中教審 教育課程部会
0コメント